和紙の原料には、古くは麻、楮、雁皮などの繊維が使われましたが、江戸時代になって三椏が使用されるようになりました。
その中で麻の繊維は、強靭ですが長すぎるため、紙の原料にするにはあらかじめ5mm~2cmほどの長さに切断したければなりません。また、それを使った麻紙は丈夫ですが、紙肌(きめ)が粗く墨と筆で書きにくさがあります。こうした原料処理の困難や書きにくさなどのために、平安時代中期ごろには、麻紙の製法は途絶えてしまいました。
そのため現在では、楮、三椏、雁皮が和紙原料の代表で、これらはいずれも非木材に属する靭皮繊維に属します。
なお、この三大原料の他に紙の用途に応じて、途絶えていた麻紙の製法が近年、復活してきたこともあり大麻(タイマ)や苧麻(チョマ)などの麻と藁(わら)、桑、竹などの非木材パルプや木材パルプ、古紙なども混合し和紙原料として使用されております。また、国産だけでなく輸入原料(フィリピン雁皮、タイ楮、マニラ麻など) も用いられております。
次に主な和紙の原料と特徴を表にまとめます。
なお、楮、三椏、雁皮ばかりでなく、補助原料のトロロアオイ(粘剤)や参考までに洋紙の原料である木材やケナフ、それにパピルスについても説明します。
参考文献
- 世界大百科事典(第2版)CD-ROM版 日立デジタル平凡社
- 広辞苑(第五版)CD-ROM版 岩波書店
分類 | 繊維 | 原料名 | 特徴 | ||||||||||||
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和紙 | 非木材繊維・靱皮繊維 |
楮 (こうぞ) |
桑科カジノキ属の落葉低木(成木は3m余り) 。栽培が容易で毎年収穫できる。樹皮の強い靭皮繊維で繊維は長く(繊維長さ 5~20mm、平均10mm)、強靭で、絡みやすく薄くとも容易に破れない丈夫な紙ができる。 障子紙、表具用紙、奉書紙など幅広い用途に、強さを求められる和紙原料として最も多く使用されている。 [注]ヒメコウゾ、カジノキ、コウゾの3種を総称。あるいはヒメコウゾを単にコウゾと呼ぶこともある。
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三椏 (みつまた) |
先端で3本に枝分かれしており、球状に黄金色の花が咲くじんちょうげ科ミツマタ属の落葉低木(成木は2m余り) 。中国中西部、南部からヒマラヤ地方が原産。 枝が三叉になる特徴からこの名がきている。楮、雁皮とならんで、現代の和紙の代表的な原料の一つで、江戸初期から使われはじめた。 繊維は、3~5mm(別資料では1.2~5.1mm、平均3.6mm)の長さで、雁皮ほど光沢はないが、柔軟で細かくて光沢があり、優美できめの細かい紙肌をつくる。また、しわになりにくく虫もつきにくく、印刷適性にも優れている。 そのため局納三椏として大蔵省印刷局に納入され、日本銀行券(紙幣)に使用されているが、この他に証券用紙、金糸銀糸用紙、金箔合紙、かな用書道用紙、美術工芸紙などの高級で重要な用途に用いられている。
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雁皮 (がんぴ) |
じんちょうげ科ガンピ属の落葉低木(成木は2m余り) 。カミノキともいう。樹皮の強い靭皮繊維で和紙原料となるガンピ属植物の総称。その繊維はおよそ2.5~5mm程度。楮、三椏とともに和紙の三大原料の一 つである。雁皮にはキガンピ、サクラガンピなど種類が多いが、いずれも栽培が困難なので野生のものを採集している。そのため希少で特別な紙にしか使われな く、光沢があり丈夫で虫害にも強く防湿性にもすぐれているので、昔は重要文書や金札に使ったが、薄く透明で湿った状態にも強いので、近年では紙幣・鳥の子 紙・謄写用紙などにも賞用された。かつては謄写版原紙用紙の原料として主に使用されていたが、現在は減少。金箔銀箔を打ち延ばす箔打ち紙、襖の下貼り用の 間似合紙など使用されている。紙面が滑らかで上品な和紙。斐紙(ひし)ともいう。
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(補助原料) トロロアオイ(黄蜀葵) …粘剤 |
中国原産のアオイ科の多年草で、茎は高さ1~2m。葉は長い柄があり、掌状に5~9深裂する。夏から秋にかけて、直径10cmほどの大きな花を、茎の上部 にまばらな穂状につける。花は1日花で、黄色。中心部に鮮やかな赤紫色の目が入り美しい。根部は長さ20cmほどの紡錘形に肥大する。根は粘液を多量に含 み、打ち砕いて水につけたものを和紙をすくのりとして用いる。
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(補助原料) のりうつぎ(糊空木) …粘剤 |
ユキノシタ科の落葉低木。各地に自生。高さ約3メートル、葉は楕円形で対生または三輪生。夏、茎頭の大きな円錐花序に、多数の白色結実性の小花と、アジサ イに似た少数の白色大形装飾花をつける。枝が中空なためパイプ・ステッキを作り、樹皮から製紙用の糊をとる。ノリノキ。サビタ。…広辞苑(第五版) | ||||||||||||||
洋紙 | 木材繊維 | 木材 |
樹木には針葉樹材(松など)と広葉樹材(ブナなど)があるが、前者は一般に軽軟であるので軟材(ソフトウッド)と呼ばれ、後者は一般に重硬なので硬材(ハードウッド)とも呼ばれる(繊維長さ:針葉樹2~4.5mm、広葉樹0.8~1.8mm)。 木材の主成分はその50%前後を占めるセルロースであり、その糸状分子の周囲を15~30%を占めるリグニンが固めていて、残りはヘミセルロースが主体である。紙パルプはセルロース部分を取り出して造る 一般に木材を小片にしたものを(木材)チップといい,パルプ、パーティクルボード、ファイバーボード製造などの原料として用いられる。通常その大きさは、繊維方向の長さ15~35mm、幅25mm前後、厚さ4mm程度である。 チップ原木としては間伐材などの小径木、林地残廃材のほか最近では製材廃材、合板工場・家具工場の廃材、さらにパレット、包装箱、住宅などの解体材も対象とされる。
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非木材繊維・靱皮繊維 | ケナフ |
非木材系の靱皮繊維に類別され、茎からジュートに似た繊維を採るアオイ科の一年草。中国ではヤンマ(洋麻)という。西アフリカまたはインドが原産。 熱帯から温帯にかけて主に東南アジア、中国などで栽培されている。生長が早く、茎は丸く、直立し高さ2~4mぐらいになる。葉は先のとがった卵形(掌状 裂)。花はアオイに似た5弁花、直径10cmほどにもなり白黄色、中心に暗赤色のまだらがある。茎の繊維は麻袋や網・ロープ・製紙原料に用いられるが、茎 の中には靱皮部に靱皮繊維、木質部に木質繊維とがあり、その比率は靱皮繊維35~40%、木質繊維65~60%であり、木質繊維の長さは、木材の繊維より は短い(繊維長さ…靱皮繊維2~6mm、木質繊維0.4~0.7mm)。靱皮部は、楮などと同じように表皮は除去され靱皮繊維単独で使用されたり、木質繊 維と混在して使われることもある。
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パピルス紙 | 非木材繊維・草類繊維 | パピルス草 |
ヨーロッパ各国の紙の語源となっている古代エジプトの書写材料であるパピルス紙は、パピルス papyrusの茎を薄くはぎ縦横に並べて強く圧縮してシートにしたもので、紙の定義でいう植物繊維を水に分散させ、絡み合わせるという紙の作り方でない ため、厳密にいえばパピルス紙は紙ではない。いわゆる、今でいう不織布の一種といえるもので、紙そのものではない。 パピルス草は、カヤツリグサ科の大型の水草で、カミガヤツリともいう。茎は高さ2mにもなり、北アフリカや中部アフリカの沼や河畔に大群落をつくって生える。 [注]紙を意味する英語 paper、フランス語 papier などは、このパピルスに由来する。
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楮、三椏、、雁皮が和紙の主な原料で、いずれもそれらの皮を使います。これらは靭皮繊維に属しますが、靭皮繊維というのは、植物が成長するときに、茎の表皮の下にある形成層が細胞分裂によって生ずる細長い細胞です。楮、雁皮、三椏などはこれが特に発達しているので和紙の原料に適しています。
そのためこれらの植物の皮をむいて、この表皮(黒皮)の部分を取り除いた白皮(靭皮繊維)からセルロース分を取り出して紙を漉くわけです。
一方、洋紙は、外側の皮の部分は除き、内側の木質繊維を原料として機械で量産します。