(2)抄紙工程
「抄紙工程」は、いわゆる紙を抄く(漉く)ところで、大部分が機械抄きです。本工程は抄紙機(ペーパーマシン)そのもので、ー般に次の8パート(ワインダー含む)で構成されています。
- ストックインレット(紙料流出部)
- ワイヤーパート(脱水部)
- プレスパート(圧搾・搾水部) …[注]1~3をウェットパート(ウェットエンド)と総称
- ドライヤーパート(乾燥部)
- サイズプレスパート(ゲートロールコーター含む)
- カレンダー(光沢部)
- リールパート(巻取枠替え部)
- ワインダー
なお、抄紙機の種類は、ワイヤーパートの型式によって、長網式と円網式(丸網式)に、また、ドライヤーパートの型式によって多筒式とヤンキー式に大別されますが、実際にはこれらの変形や2種類以上の組み合わせ(コンビネーション)のものもあります。
叩解、薬品配合の終わった紙料は濃度0.5~1%前後(水分99.5~99%程度)に希釈、調整されストックインレットからワイヤーパートへ噴出され、ワイヤー上で走行しながら、水はワイヤー下に流出・脱水、さらに吸引・脱水されて、紙層を形成していきます。
ワイヤーパートを出たところで20%程度の紙料濃度(水分80%程度)となり、次のプレスパートで紙匹は、プレスロールとフェルトとの間で圧搾・脱水されて、一般的に水分53~60%(濃度47~40%)ぐらいに、さらにドライヤーパートで湿紙の水分が5~10%にまで乾燥され紙となります。
また、カレンダーパートでは平滑性を良くし、艶を出すために鉄製ロールの間を数段(4~8段)、加圧通紙、その後、リールパートで所定の長さに巻き取られ枠替えし、リールスタンドへ移します。この段階で上質紙などの非塗工紙はできあがります。
なお、一般的にドライヤーパートの中間部に、紙の表面強度を上げたり、水やインキに対する浸透性をコントロールするために表面処理を行うサイズプレスが設置されております。
以下それぞれの工程について概記します。
工程 | 説明 |
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(1)ストックインレット (紙料流出部) (stock inlet) |
調成からの原料は脱気除塵後、ファンポンプと呼ばれる流量が変っても圧力変化の少ないポンプでストックインレットに送られる。 ストックインレットの機能は、抄紙機のワイヤー全幅に、均一でフロック(小さな塊)がなく、流れ縞を生じないように繊維をよく分散した原料を適正な濃度、速度、角度でワイヤー上に供給することである。このために原料濃度は0.5~1%前後とできる限り低く設定されている。 |
(2)ワイヤーパート (脱水部) (wire part) |
抄紙機の型式はワイヤーパートの構造の差から、長網抄紙機(フォードリニアマシン)のほかに円網抄紙機や各種のフォーマー(代表例はツインワイヤーフォーマーでダブルワイヤーフォーマーともいう)がある。 ■長網式抄紙機(Fourdrinier paper machine)1枚の回転するエンドレスの長いワイヤー(すき網)を持つ型式の抄紙機を長網式抄紙機というが、ワイヤーパートは原料を脱水し紙層を形成させるとこ ろである。紙料はワイヤー上を走行し、初めはテーブルロールやフォイルなどの脱水パーツで、また脱水が進んでからはサクションボックス、クーチロールなど の真空ポンプを用いた脱水装置によって20%前後の水分を脱水し、次のプレスパートに送る。 ワイヤーは以前は青銅製(ブロンズワイヤー)であったが、現在ではほとんどプラスチック製となっている(ワイヤー目の大きさは一重織りブロンズワイ ヤーで70メッシュ相当)。長網式抄紙機は、現在最も多く用いられている抄紙機であるが、問題点は、下側からだけ脱水されるために表裏差を生ずることで、 高速ではそれが特に著しくなる。また、高速になると空気抵抗でワイヤ一上の原料表面が乱れるため、速度は最大 900m/分程度に抑えられる。
■ツインワイヤー式抄紙機(twin wire paper machine)ツインワイヤー式抄紙機は、上記の長網式抄紙機の欠点(紙の表裏差、高速化) を解消するため開発されたもので、ギャップフォーマーとハイブリッドフォーマーに分類される。
原料は2枚のワイヤーに挟まれて走行し、両側にほぼ均等に脱水するため、長網式と比べて、紙の表裏差が少なく、地合が良い。高速抄紙が可能で、現在、新聞用紙やティシュ用の薄物高速抄紙機(1800m/分) として多く用いられている。
オントップワイヤーフォーマーとも呼ばれているが、従来の長網式ワイヤーの途中または最後部の上にもう1つのワイヤー(トップワイヤー)を載せて、その部分で上下両方に脱水する型式である。 いわば長網の一部をツインワイヤー化したもので、ワイヤー上の留まりや紙の地合は良くなり、抄速はギャップフォーマー式ほど速くはないが1,300 m/分程度にすることができる。現在、印刷用紙や塗工原紙用抄紙機として用いられている。
■円網式抄紙機(cylinder paper machine)円網式抄紙機は1809年に英国のディッキンソンによって発明されたもので、その構造は抄槽の中で円網を回転させ、それによって円網上に生じた紙料層をクーチロールでフェルト上に吸いつけていくものである。 抄速は遅いが薄物抄造に適し、純白ロールや衛生用紙(ティシュ)などの製造に用いられている。また、円網を多数ならべて、それらの原料を順次吸いつけていくと多層に抄き合わせた紙を作ることができ、古くから板紙用抄紙機として用いられてきた。 なお、最近は高速化のニーズから、すき網部に短いワイヤーを使った短網式のものや長網上に複数のワイヤーを載せたものが開発され、さらには円網、短網、長網の組み合わせたコンビネーション抄紙機が実用化し、紙の種類や要求に応じて使われている。 |
(3)プレスパート (圧搾・搾水部) (press part) |
ワイヤーパートから出てきた80%前後の水分を持った湿紙を、数組のロールとフェルト(毛布)を介して、機械的に圧搾脱水するとともに、ワイヤーマークなどを減らし紙質を向上するためのセクションである。 繊維は保水性が高いため、プレスパートでの機械的脱水には限界があるが、湿紙をフェルトに載せて数組(3~4組)のプレスロールの間を通して圧搾し53~60%の水分率になるまで脱水する。 プレスロールには表面を研磨し滑らかにしたプレーンロール(ストーンロール…花崗岩)と、プレーンロールだけでは脱水が不十分なため、表面に円周方 向の溝を付けたグルーブドロール(溝付きゴム被覆ロール)や、ロール内部に吸引箱(サクションボックス)を持ち、水分を吸引するために表面に穴が開けてあ る真空サクションロールなどがある。実際にはそれら組合わせで使用される。 |
(4)ドライヤーパート (乾燥部) (dryer part) |
多筒式ドライヤーとヤンキードライヤーの形式がある。 ■多筒式ドライヤープレスパートを出た湿紙はカンバスで保持して数十本のドライヤー表面に接触させ、水分を蒸発させて5~10%の製品水分まで乾燥する。 ドライヤーは直径1.2~l.8 mの鋳鉄製シリンダーで、低圧の蒸気を吹き込み、凝縮水を排出する構造になっている。効率良く乾燥するため、ドライヤーパートは密閉フードを付けることが 多く、給気は排気と熱交換して供給しフード内の温度を高めている。また湿った空気の溜りやすいポケット部には別に熱風を吹き込み、換気と乾燥の促進を図っ ている。
■ヤンキードライヤー(Yankee dryer)ティシュや片艶包装紙は、ヤンキードライヤーと呼ばれる直径 3~ 5.5mで表面が鏡面仕上げされた1本のドライヤーで乾燥が行われるので、このドライヤーを持つ抄紙機はヤンキー抄紙機(Yankee paper machine)という。 プレス工程を出た湿紙は、ヤンキードライヤーに張りつけて乾燥させるので、片面だけ艶のついた片艶紙になる。また、ティシュの場合はクレーピングドクターで紙を掻き取るので、20~30%のクレープのついた紙となる。 |
(5)サイズプレス パート(ゲートロールコーター含む) (size press) |
ドライヤーパートの中間部に設置されている。サイズプレスは、紙に表面強度や耐水性を付与する目的で、ドライヤ一乾燥後の紙面に澱粉などの溶液を塗布する装置である。印刷のオフセット化が進につれて普及した。 サイズプレスには、2ロールタイプが多いが、抄紙機の高速化にともなう、ロールポンド部でサイズ塗布液が飛び跳ね、いわゆる沸騰状になるボイリング現象が著しくなるなどの問題が生ずるため、近年、ゲートロール型やロッドメタリングタイプが採用されるようになった。
■2ロールタイプ2本のゴムロールの間を紙を通し形成されるニップ部に塗布液(サイズ液)を供給し、ポンドと呼ばれる塗液溜りを作り、いわゆるドブ漬けすることによって紙の両面にサイズ液を塗布する表面サイジング装置である。 液濃度は3~6%と低い。型式には垂直型(バーチカル型)、水平型(ホリゾンタル型)および傾斜型(インクラインド型)があり、主流は傾斜型であ る。サイズプレスは塗布濃度が低いため、後述のゲートロール型よりは紙の乾燥に多くの熱量が必要である。しかも、マシン速度が速くなるにつれ、ポンド部で 塗布液が飛び跳ね、いわゆる沸騰状になるボイリング現象が発生し、抄速アップ(1,000m/min.以上) が困難である。 なお、表面サイズ剤としては主に澱粉、ポリビニルアルコール(PVA)やポリアクリルアマイド(PAM)などが使われている。
■ゲートロール型…ゲートロールコーター(gate roll coater)サイズプレスのポンド(含浸法)方式に対して転写方式が採用されるようになった。その典型がゲートロールコーターである。これは前記の高速化にとも なうボイリング現象対応と塗布液濃度が高くできるため省エネの面から適用されるようになってきた。ゲートロール型は10~20%くらいの高い濃度の液が塗 布できるロール塗工装置のー種で、本体は6本のロール(片面3本)で構成され、塗液はロール表面で被膜を形成し、この被膜を紙に転写する形で紙の両面に同 時塗工される。 近年、印刷用紙や塗工原紙、新聞用紙など多くの品種に採用されるようになったもので、オンマシンコーターとして、上質紙などの非塗工紙に澱粉、 PVAやPAMなどの表面サイズ剤を塗布する表面サイジングばかりでなく、顔料やラテックス、澱粉などを配合した塗料を塗布するコーターとして活用され微 塗工紙分野にも適用されている。その塗布量は片面で 0.5~10 g/m2近くまでの広い範囲で塗工される。 また、サイズプレスに比べ、塗布液が高濃度のため、紙の中に浸透するよりも紙表面に塗工膜として残る。いわゆる転写塗工であり、そのため、ゲートロールコーターは微塗工紙製造等を含めて紙表面の改質を行いやすい。 一方、サイズプレスは低濃度でポンド方式のため塗布液が紙の中に浸透しやすく、紙の層内強度を上げやすい。 ゲートロールコーターでは、紙匹(ウェブ)と同速で回転するアプリケーターロール間で紙は面圧を受け、塗工されるが、塗布量は塗布液の濃度、速度、 ニップ圧、各ロールの速度比、ロール硬度などによって決まる。また、塗布液はファウンテンロール(アウターゲートロール)とメタリングロール(インナー ゲートロール)との間に供給され、そこでポンドを形成し、メタリング(計量)され、アプリケーターロールに転写される。そのためにボイリング現象がなく2 本ロールサイズプレスより高速運転が可能である。
なお、高速でもボイリングの発生がない、ロール回転に対し反転するロッドでサイズ液を紙に転移させる転写方式であるロッドメタリングタイプがある。
ところでサイズ液塗布後は、さらに乾燥するためのドライヤーが必要で、サイズプレス前のドライヤーをメインドライヤー、サイズプレス後のをアフタードライヤーと呼ぶ。 |
(6)カレンダー (光沢部) (calender) |
ドライヤーパートから出てきた紙は、表面が粗くラフな面をしている。この面を平滑でー様な厚さと光沢を付与するために、カレンダー(キャレンダー)装置が使用される。 表面をチル鋳鉄化したロールを数本上下に組合わせた構造をもち、紙はこのロール間を通り加圧処理を受ける。 最下段のボトムロール(キングロール)は大径でクラウン付きで、現在は可変クラウンロールが多い。なお、すぐ上のクイーンロールも通常クラウンが付けてある。また、紙の厚さを均一に仕上げるために、ロールの熱膨張を押さえる調整用の冷風吹出し装置もある。 |
(7)リールパート (巻取枠替え部) (reel) |
カレンダーから出てきた紙の抄紙工程は、リールで巻き取られる。 |
(8)ワインダー (winder) |
さらにワインダーで巻き直しながら不良部分を取り除き、所定の幅と長さに巻き取って最終製品(上質紙などの非塗工紙巻取)として出荷するか、あるいは塗工(加工)・断裁のために塗工機・カッターなどの次工程へ送る。 なお、上質紙などの非塗工紙はカッター(仕上工程)で所定寸法に平判断裁され、検品選別後、包装され出荷される。 |