9.2 印刷インキの組成と乾燥方式
枚葉オフセット印刷用インキの乾燥方式は一般に、酸化重合による化学変化ですが、オフ輪印刷用インキは、ヒートセットインキとクイックセットインキの2つに大別されます。
ヒートセットインキは、印刷直後に熱乾燥装置を通過させることにより、インキ中の溶剤が蒸発して乾燥する加熱蒸発タイプです。また、クイックセットインキに比べて光沢が優れており、最近では低温乾燥型インキの研究が進み、以前は紙面温度が 150℃くらいであったものが現在では、100~110℃(あるいはこれ以下)で乾燥するインキがあり、ひじわ、ブリスター、背割れなどのトラブル減少に役立っています。
一方、クイックセットインキは、ノンヒートセットインキともいい、浸透による乾燥を主体とするタイプであり、新聞用オフ輪インキもこのタイプに属し、印刷後、短時間にビヒクル中の溶媒が紙にしみこんで半固体状のインキ膜を作り、裏移りの起こらない程度にセットする速乾性インキです。
ビヒクルには合成樹脂と油性ワニスとを加熱融合し、これを高沸点溶剤に溶解したものを用います。クイックセットインキの使用により裏移りの可能性は減少しますが、印刷光沢の発現が劣る傾向になりますので注意が必要です。
なお、グロスインキは特に光沢の高い印刷物を得るために作った凸版ないし平版インキですが、ビヒクルにはロジン変性フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、アルキド樹脂などの合成樹脂や、亜麻仁油、桐油などの乾性油や合成乾性油あるいは石油系溶剤に溶解した樹脂ワニスを用います。
また、グラビアインキおよびフレキソインキは、溶剤型のインキでインキ中の溶剤が、加温により蒸発して固化する蒸発乾燥タイプであり、UV(Ultra Violet)インキは紫外線硬化型インキといい、紫外線を照射することによって瞬間的に硬化乾燥するタイプですが、その成分は従来の油性インキとは全く異なっており、感光性の樹脂ワニスを使用した無溶剤型インキです。
印刷媒体の差でみた場合、インキの浸透性がないプラスチックフィルムやアルミ箔などの媒体へ印刷するときは、蒸発乾燥型や紫外線硬化型のインキを使用する必要があります。
また、紙器(板紙)用の印刷インキには、用途面から耐摩擦性や耐折性が要求されるため、インキ被膜が強く、柔軟性が必要で、かつ耐水性や光沢なども備えていなければならない。 なお、補助剤の一つにドライヤーがありますが、これは印刷インキが酸化重合により乾燥するのを促進するものであり、印刷光沢を向上させる効果もあります。ただし、この場合は、適正な配合量(インキに対して1~3%くらい)が必要で、多過ぎれば効果が薄くなり、害も出ことがあります。このように補助剤を使用するにあたっては、その適正配合に注意を要します。
ところで、以前に比べ新聞紙のインキが手に付きにくくなり、汚れにくくなっていることにお気付きのことと思いますが、これは印刷方式が凸版輪転印刷からオフセット輪転印刷への移行に伴い、インキも凸版輪転用新聞インキから新聞オフ輪インキへ切り替わったことによるもので、前者の成分は、カーボンブラック(黒色顔料)と鉱物油が主体で、樹脂分が少ないためインキが取れやすく、手などに付きやすくなります。これに対して、後者はカーボンブラックと樹脂分がほとんどで、この樹脂分が顔料を覆う形となり、インキが手などに付きにくくなるためです。
ちなみに、凸版輪転用の新聞インキは、すべての凸版インキおよび平版インキの中でも最も粘度が低く、インキが紙に転移した後、インキ中の鉱物油が浸透し、固化する浸透乾燥型です。次に代表的な印刷インキの組成と印刷インキの乾燥形式をそれぞれ掲げます[印刷について(9)資料 印刷インキ関係の用語説明(補足) 参照]。
オフ輪インキ(商業用)凸版インキ(活版)新聞インキ(凸版)
オフセット枚葉インキ |
オフ輪インキ (商業用) |
凸版インキ (活版) |
新聞インキ (凸版) | グラビアインキ | |
---|---|---|---|---|---|
顔料 | 15~30% | 20~30% | 25~35% | 15~20% | 20~30% |
ビヒクル |
乾性油/樹脂 70~50% 亜麻仁油/溶剤 |
乾性油/樹脂 60~30% 亜麻仁油/溶剤(多) |
乾性油/樹脂 70~60% 亜麻仁油/溶剤 |
鉱油/樹脂 85~80% 鉱油(多) |
揮発油/樹脂 80~70% 低沸点溶剤(多) |
乾燥形式 | 代表的なインキ | ビヒクル組成 | 乾燥法の説明 |
---|---|---|---|
浸透 | 凸版(活版)輪転インキ、新聞インキ、謄写版インキ | 鉱物油と樹脂(ロジン…天然樹脂、合成樹脂) | インキ中の低粘度成分が被印刷素材(紙)の中に浸透し、顔料は繊維間隙に固着成分(ロジン等)などにより固定、乾燥。従って、多孔質で浸透性の大きい中質紙・ザラ紙などへ適用 |
蒸発 | グラビアインキ、フレキソインキ | 低沸点溶剤、樹脂 | 常温でインキ中の低沸点溶剤が蒸発し、セット、乾燥 |
浸透、ゲル化と酸化重合 | 枚葉平版インキ、ノンオーブン・オフ輪インキ | 乾性油、樹脂、高沸点溶剤 | [酸化重合]ドライヤーによる触媒作用により、空気中の酸素とインキ中の乾性油成分(不飽和脂肪酸)が結合、化学反応し、乾性油の重合が起こり乾燥 |
加熱蒸発、ゲル化と酸化重合 | ヒートセット・オフ輪インキ | 同上 | 加熱によってインキ中の石油系溶剤が蒸発し、セット、乾燥。熱で固化(ゲル化)する合成樹脂を使用する |
冷却固化 | コピーインキ、凸版用カーボンインキ | ワックス | 印刷後、冷やすことによって固化…コールドセットインキ |
光重合 | UV(紫外線)インキ | 感光性ポリマー、モノマー | ある特定の波長光(紫外線)で反応、重合し、固化、乾燥 |
ところで、インキには色があります。印刷物に光源から光があたり、反射した色をその色として感じますが、反射光が全くないときは黒色となります。
カラー印刷の場合には、印刷インキなどの色料は、緑がかった鮮やかな青色であるシアン[cyan (略してC)、シアンブルー、青緑]、鮮やかな赤紫であるマゼンタ[magenta(M)、赤紫]およびイエロー[yellow(Y)、黄]の3原色を基本とし、これらの混合によりすべての色を作り出していますが、この3原色を混合しても暗黒色となり、完全な黒色とならないため、これらにブラック[black(BL)、黒]を加えた4色を使います。この4色をカラー印刷の基準インキ(プロセスインキ)といい、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローを印刷ではそれぞれ、スミ(墨)、アイ(藍)、アカ(赤)、キ(黄)と呼びます。
なお、この標準4色以外に、特別に調合された色を特色といい、通常の4色だけでは表現が困難な場合に使用されます。
注
光の3原色は、緑[green(略してG)]・赤[red(R)]・青紫[blue(B)]をいい、この3原色を混合すると白色になりますが、このように混ぜて明るい色になるのを加法混合(混色)[加色混合]といい、逆にインキの3原色のように、混合して黒色のように暗い色になるのを減法混合(混色)[減色混合]といいます(図5)。