「偽」に始まり「偽」に終わった昨年(07年)でしたが、改まった新年早々に、「再生紙偽装」「古紙偽装」「環境偽装」とか「エコ偽装」と言われる再生紙の古紙配合率を偽った問題が大手製紙会社で発覚しました。これを機に芋蔓式(いもづるしき)に製紙上位6社を巻き込み、さらに中堅以下も含み合わせて18社(日本製紙連合会加盟17社と非加盟1社…25日現在)と広がり、大きな問題に発展し、当該製紙会社はもちろんのこと製紙業界はかつてない窮地に立っています。
「リサイクルの優等生」と言われるまでになっていた日本の製紙産業、そして業界を挙げて古紙・再生紙を基本にした「紙のリサイクル」と、植林・育林による「森のリサイクル」をキーワードとして「環境」をPRしてきたこの産業、その産業の主体たる多くの企業で「古紙配合」偽装が発生したことは、本当に残念でなりません。
造る人も造られた紙も真に「環境にやさしい」信頼される製紙産業に早く立ち直ってほしいものです。以下、二度とこのようなことのないよう願って、記録としてまとめてきます。
下記の関連記事は新聞、インターネット、テレビなどから入手したものです。状況はまだ変わっていきそうですが、中間的な意味合いとして掲げておきます。
まず、総括として新聞の社説を示します。
◎再生紙偽装 環境でうそをつくとは
(出所)信濃毎日新聞 社説(2008年1月22日付)
1社だけでも問題なのに、製紙業界の有力6社が再生紙の古紙配合率を偽っていたのにはあきれた。偽装が明らかになったコピー用紙などの販売中止が決まり、生活への影響も広がりそうだ。
製紙会社でつくる日本製紙連合会は21日に理事会を開き、再生紙の表示を見直す検討委員会の設置を決めた。環境意識の高まりを考えれば、遅すぎた対応だ。
紙のリサイクルは最も知られている環境対策の一つだ。「再生紙」のはっきりした定義はないものの、消費者を裏切った責任は大きい。
古紙の再利用を進めてきた新聞社としても、重大な事態だと受け止めている。製紙業界はルール作りを急ぎ、消費者への説明を尽くして、信頼回復に努めてほしい。
なぜ偽装が相次いでいるのか-。古紙を多く配合すると、紙のきめが粗くなり、紙の白さなど品質が低下するのが原因だと、各社は説明している。
問題の端緒となったのは、今年の年賀状の「再生紙はがき」が、日本郵政グループ指定の古紙配合率40%を大きく下回っていたことだ。納入していた5社全社が偽っており、最も少なかったのは古紙の配合が1%しかなかった。
年賀状ばかりではなく、日本郵政が扱う再生紙はがきすべてで、偽装が明らかになっている。さらに、コピー用紙などの再生紙でも、古紙配合率が公表数値より低かったことも分かった。
環境に配慮した製品の購入を国などに義務付けた「グリーン購入法」に基づき納入する製品も、不足しそうな事態だ。コピー機などのメーカーは、配合率を偽装していたコピー用紙の販売中止を決めた。
横並びともいえる偽装が広がっていた背景の一つは、再生紙に高い品質が求められ、競争が激しくなっていることがある。はがきでは、古紙を増やすと紙のきめが粗くなり、機械での郵便番号読み取りに支障が生じる心配が出た。契約を維持するために、無断で古紙の割合を減らし紙の質を上げたという。
古紙が需要に追いつかないという事情もある。古紙の回収は約6割に上るが、中国などへの輸出が伸びている分、国内で使える良質の古紙が足りないという。
信頼回復への第一歩は、古紙の配合の割合など表示を明確に分かりやすくすることだ。第三者機関によるチェックも検討課題になる。
製紙業界は、できないものは「できない」と言うべきだ。何が本当に環境にやさしいか、産業界や消費者ができることは何か、の論議はそこから始まる。
◎再生紙偽装―「エコ」でだます罪深さ
(出所)朝日新聞 社説(2008年1月20日付)
「古紙40%」とうたわれた年賀はがきに、じつは配合率ゼロのものも。100%再生紙という触れ込みのコピー紙にも7%しかないものがあった。
ノート用紙、印刷用紙、封筒……。再生紙とされる製品が軒並み配合率を偽っていた。環境に配慮したい、という人々の善意を踏みにじった罪は重い。
食品から発覚した昨年来の偽装は、耐火材、再生紙へ、とどまるところを知らない。企業社会が土台から腐ってきたのではないかと不安になる。
再生紙の偽装はなぜ始まったのか。
はがきでみると、92年ごろ、製造工程で出る切りくずなどの損紙は「古紙」として扱えると見込んで受注した後、損紙は古紙扱いされないことが分かった。通常の古紙を40%も混ぜると、シミなど品質上の問題が起きる。そこで、こっそり配合率を下げたという。
発注者に正直に告白して、商談をやり直せばよかったのだが、ライバルに注文をさらわれたくない気持ちが邪魔をした。ところが、そのライバルも偽装していた。こうして、配合率は検証しにくいのをいいことに、業界をあげてウソをつくのが常態になっていった。
再生紙の「エコ偽装」は、古紙を再利用するときの技術的な制約を製紙会社が隠したことから起きた。
配合率が高くても高品質の紙がつくれるかのように装って売り込む。ユーザー側は実情が分からないから、色つやや手触りなど再生紙への要求水準を高めていく。その結果、配合率という数字が独り歩きしてしまった。
古紙の再利用は環境意識を高めるのに一役買ってきたが、ムード先行のエコ活動からはもう卒業すべきだ。
古紙利用をめぐる条件は、さまざまに変化している。中国への古紙輸出が急速に拡大し、良質な古紙が少なくなった。再利用を重ねれば、古紙自体の質も落ちる。印刷技術が発展し、手にしても指が汚れない半面、再生の工程で洗っても落ちにくいインキが増えている。
求める品質によっては、再利用のため薬品や燃料をたくさん使い、環境にかえって悪くなることさえある。
したがって、個々の紙製品の古紙配合率を高めるほど環境によい、と単純には言えない。古紙の再利用を全体として高めていくことが肝心なのだ。それが実現するよう、古紙をめぐる条件の変化に応じて、再生紙についての基準も柔軟に見直す必要がある。ユーザーとともに新しい用途を開発するのも大切だ。
これらを行う大前提は、製紙会社が古紙利用の実情を包み隠さず正直に伝えることである。ウソをつかれたのでは、すべてが狂ってしまう。こうした意味で、今回の偽装はまことに罪深い。
パルプという森林資源のおかげで成り立っている製紙業界は、環境重視をうたい文句にしてきた。その原点に立ち返って猛省しなければならない。
◎環境偽装 エコの名に隠した企業エゴ
(出所)毎日新聞 社説(2008年1月19日付)
「ばれなきゃかまわない症候群」という妖怪が企業社会を徘徊(はいかい)しているのか。日本製紙など大手製紙会社が再生紙の古紙配合比率を偽っていた。「また偽装か」とうんざりした人は多いだろう。「偽」の字に象徴された旧年から思いを新たにする年賀はがきがそれだとは何とも皮肉なことだ。そして、いわゆる「環境配慮製品」の看板を偽ったという点で、今回の問題は一連の偽装とは異なる意味もはらむ。
温室効果ガスの排出削減義務を守るため、自分の生活レベルを下げることができるか。毎日新聞の昨年末の世論調査では、49%の人が「できる」と答え、「できない」(41%)を上回った。地球温暖化問題に9割もの人が関心を払う。
購買行動でも「環境に優しい」とされる商品を選ぶ人は増えた。そうしたことで資源保護や環境保全に参加、行動する実感を抱く。今回の大幅に水増し偽装された古紙配合比率の数値は、その実感が錯覚だったとあざ笑うようなものだ。
さらに、ほかの環境配慮製品に対する疑念も生じさせ、ごみ削減やリサイクルなどへの参加、協力の意欲もそぎかねない。「今回の偽装は結果的に品質のいい紙を提供していたのだからいいのではないか」という論法は通らない。森林資源保護がほとんど「空念仏」だったということになり、利用者はその製品を選択した意義がなかったという失意を味わわされるのだ。
視点を転じると、数値設定に問題もある。
例えば、最初に問題が発覚した年賀はがき(日本郵政へ納入)は古紙配合比率40%とされている。その通りにすると黒ずみ、郵便番号読み取りなどに支障が出ると業者側は釈明する。また、国の機関などに購入を義務づけた「グリーン購入法」対象製品でも古紙配合比率偽装がわかったが、求められる数値が高すぎて技術的に無理だったという。
ならば、無理とはっきりした最初の段階で、納入先に説明し、事実通りの表示をすればよい。契約で他社に後れをとるわけにはいかない、という偽装継続の論理は企業エゴ以外の何ものでもない。私たちが失望するのは、技術がまだ及ばないということより、製品に実体のない数値を掲げて平然としていることなのだ。
話し合いによって、ぎりぎり可能な技術と最低限の品質を互いに歩み寄らせれば、より環境配慮の名にかなった製品にできたかもしれない。環境問題とは、そうした手間をかけ、じっくり取り組むことによって着実に改善していくものだ。多くの人たちはそう理解し、地道に行動している。
今夏、環境を主要テーマに北海道洞爺湖サミットが開かれる。制度や検証の不備を補って「環境偽装」をぬぐい去り、私たちの社会の真摯(しんし)な取り組みを胸を張って示せるようにしたい。
◎あきれた再生紙偽装
(出所)日本経済新聞 社説(2008年1月19日付)
日本製紙をはじめ王子製紙、大王製紙、三菱製紙、北越製紙の業界大手5社が、年賀はがき向け再生紙の古紙配合率を偽っていた。偽装はコピー用紙などにも幅広く及んでいる。持ち株会社の日本製紙グループ本社の中村雅知社長は工場長時代から知っていたという悪質さである。
昨年、日本製紙、王子製紙、大王製紙を含む製紙13社の大気汚染防止法違反が明らかになったばかりである。環境重視の経営をうたう業界を代表する5社が、今度は再生紙偽装というのだから、あきれる。
要求基準の古紙配合率を大幅に下回る年賀はがき向け再生紙を大量に供給していた日本製紙は「品質を確保することを優先した」と釈明している。使用するうえで実害がないとはいえ、大目に見るわけにはいかない。コンプライアンス(法令順守)を軽くみる体質は危険である。
日本郵政の求める古紙配合率40%を一定の品質を維持して満たすのは、同社の技術力では困難だったという。日本製紙を含め5社の実際の古紙配合率は0―20%程度という。にもかかわらず偽装したのは販売を優先したためだろう。
品質確保と言えば聞こえはいいが、資源を循環させる再生紙の品質という点では失格である。2001年施行のグリーン購入法により、官公庁などの国の機関は、環境に配慮した製品の購入を義務づけられている。同法の基準に反する再生紙も販売されていた。まがい物に税金をつかわせたことにもなる。
日本製紙グループ本社の中村社長が引責辞任の意向を示したのは当然である。日本製紙は昨年、排出基準を超えるばい煙を出しながら、データを改ざんしていた。ルール違反もうまくごまかせばよしとする体質がありそうだ。同社から再生紙を調達していた企業の間で、再生紙の取引を中止する動きが広がっている(抜粋)。