紙の基礎講座(1) 私は紙

私は紙。私は「生きもの」。人の日常生活に身近にあり、必要でなくてはならないものになっています。目も耳もあれば、腰もあります。また、口(小口(こぐち)、断面)もあります。もちろん顔(面(めん、おもて)、紙面・表面)もあれば、紙(しはい)とか、「眼光紙に徹す」という語句があるように、(裏面・裏側)もあります。さらに人にはそのひと固有の指紋があるように、私(紙)にもそれぞれ特有の「紙紋」があります。

 

  • 「紙」…紙のうら。文書などの面。転じて、文章の言外に含まれた意義のこと。
  • 「眼光紙に徹す」…書物を読んで、ただ字句の解釈にとどまらず、その深意を読みとること。
  • 「紙紋」…紙の表面の凹凸などの紙繊維のランダムパターンをいう。富士ゼロックスが提唱(参照「紙への道」コラム(47) 「紙紋」とは…紙指紋照合技術)。

 

また、人は身長(高さ、縦方向)と、肩幅とか恰幅のように幅を持っていますが、私(紙)にも縦、横があります。そして丈があまり伸び縮みしない成人同様、私(紙)の縦方向もあまり伸びたり、縮んだりしませんが、横方向は油断をすると、太ったりやせたりと伸び縮みします。しかも伸び縮みするばかりでなく、重さ(質量)も増減します。これはちょうど、人が「横太り」して、体重が増えるのに似ています。

さらに「紙一重」と言う言葉のように人間と比べると私(紙)は、比較にならないほど薄いながらも厚みがあります。

 

もちろん、生きている証拠に私(紙)は、誕生以来、人間のように絶えず「呼吸」をしており、「息」をしています。しかし、人間とは少し異なります。人間のように空気中の酸素を取り入れ、二酸化炭素を放出するガス交換でなく、私(紙)は周りの温度(気温)の影響を受けながらも、特に空気中の水分(水蒸気、湿気)を吸ったり、吐いたりの呼吸をしているのです。

時には、生まれたての私(紙)は、病人のように一時期、室(しつ、むろ)のなかに寝かせられて、十分に成長するように熟成させられることもあります。また、手入れが悪いと、シミが出たり、風邪をひいたりもします。

しかも、腰がある(腰が強い)、腰がない(腰が弱い)とかのように、しっかりした粘りや弾力性がある、なし等の性格(性質・品質・傾向)は誕生時までに形成されます。

 

なお、人間が皮膚の色などにより数種類の人種に分類されているように、私(紙)たちにもさまざまな種類があります。例えば見た目で分かりやすい色についていえば、白色系が多いのですが、黒色系もあれば、黄色系、赤色系、緑色系など、本当にいろいろな色があります。

また、私(紙)の肌(表面)は人間と同じように、きめ細かいものから、ざらっとした粗っぽいものまでさまざまです。さらに肌のつや(艶)の程度もさまざまで、つやつやと光沢があるもの、逆につや(艶)がなく、しっとりしたもの、その間にあるものなどなど多様です。

 

さらに、これまでに人類が大きく進化してきたうに、私(紙)たちも進化しており、人間なみにお化粧をしたり、香りを付けたりもします。また、喋ることもできるようになりました[“しゃべる紙"(オーディオペーパー)…参照 TOPPAN FORMS RFID-ing ~RFIDタグ製造からシステム構築まで]。まだまだ、さまざまな進化をしています。これからもさらに進化していくことでしょう。

そして人が代々子孫を残すように、私(紙)たちの原料となる森林などの再生も行われていますが、私(紙)たち自身も重要な役目を果たした後も、多くは大事にされ、後の代まで続くように再生され、再び甦(よみがえ)ります。

 

ところで「福紙(ふくがみ)」とも、戎紙(恵比須紙、えびすがみ)という縁起のよい紙があります。これは「紙のすみが内へ折れ込んだまま断裁されて、三角形状の裁ち残しのある紙」のことで、本来ならば紙の裁断ミスによるトラブルで、本などで欠陥商品になるべきものですが、めったにない珍しいことなので、福紙とか、戎紙(恵比須紙)と言われています。

言い伝えによれば10月は全国の神々が出雲大社に集まりますが、七福神のうちの恵比須さまだけは残っています。このことから、「旅立たずに残る福の神」、すなわち「立ち残る神」を「裁ち残る紙」として掛けたわけてす。

紙(神)が中に入っているということで、福紙(恵比須紙、戎紙)が入っている本などを手にすることは縁起のよいことに例えられています。なお、折れこんだ箇所を開くと恵比須さまの頭巾に似た形なので、「恵比須紙」と付けた名称ともいわれています。ちなみに英語ではdog's ear (paper)といいます。

製造技術、管理技術の進歩が進んでいる今日、このようなミスはずいぶんと少なくなっていますので、こうした福紙(恵比須紙、戎紙)に出会える幸運な人はいないのかも知れませんね。

 

このように、この世に生まれ出た私(紙)ですが、その生涯は順風満帆(じゅんぷうまんぱん)ばかりではありません。逆風が吹くこともあります。ときにはトラブルが起きたり、クレームが発生することがあります。このようなときに必要なことは、迅速で、かつ正直な対応です。

このことは私(紙)の世界でも大事なことですが、感情を持ち、ときにミスをし、虚偽をすることのある人間の世界でより重要なことです(参照…コラム(6) 紙は生きもの)。

(2006年4月1日)

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)