紙は素晴らしい素材であり、商品です
それでは私(紙)についてもう少し詳しく紹介していきましょう。
はじめに
まずは、紙の定義からです。
紙とは、「植物繊維その他の繊維を膠着(こうちゃく)させて製造したもの」で、さらに、広義には「素材として合成高分子物質を用いて製造した合成紙のほか、繊維状無機材料を配合した紙も含む」と日本工業規格 紙・板紙及びパルプ用語(JIS P 0001 番号4004)に定義付けされています。対応英語は「paper」。
これを日常、お世話になっている一般的な紙について、もう少し分かりやすく言えば、「紙とは、木材などの植物から取り出した繊維状物質(パルプ)を水の中に分散させ、それを網や簀(す)の上に均一な(薄い)層、いわゆるシート状を形成するように流出させ、からみ合わせて、さらに脱水したのちに、乾燥したもの」です。この過程で薬品添加・塗布や加圧など種々の処理・加工が行なわれて、紙が出来上がるわけです。
したがって、この定義によれば、欧米各国の「紙」(英語:paper、フランス語:papier…など)の語源となっている古代エジプトのパピルス紙は、書写材料に用いられはしましたが、厳密にいえば紙ではありません。何故ならば、パピルス紙は紀元前3000~2500年ころ、パピルス(papyrus)という草の茎の外皮をはぎ、芯を長い薄片として縦・横に並べて水をかけ、重しをかけて強く圧搾、表面を石・象牙等で擦って平滑にして天日乾燥し、シート状にしたものであり、植物繊維を水に分散させ、絡み合わせて作ったものでないため、紙そのものとはいえないわけです[参照…本サイト「紙への道」紙についておよびコラム(11) 紙の用語解説[1]紙とは、板紙とは、…]。
そして紙の種類は多い。ところで紙の種類はどれくらいあるのでしょうか。分類上、わが国では紙は「紙」と「板紙」に大分類され、さらに用途別に新聞巻取紙、印刷・情報用紙、包装用紙、衛生用紙、段ボール原紙、白板紙などの品種ごとに分類され、さらに例えば、印刷・情報用紙なら非塗工紙、上級印刷紙、印刷用紙Aと次第に細目に分かれています。
しかも、これらは最終的には、それぞれ坪量(米坪)・紙厚の別や寸法別があり、かつ形態別には平判と巻取にきめ細かく分けられています。
その数は、紙・板紙の品種分類表(該当品種の説明含む)にある原紙ベースで120種類あまりですが、上記のようにさらに坪量、サイズ(断裁寸法)別などに分けると、製品規格数は標準規格だけでも25万種以上あるといわれています(世界大百科事典「紙・パルプ工業」から)。
大変な数ですね。わが国の製紙産業は、それだけ製品サービスをしていることになりますが、逆に言えば、多品種・多規格・少量生産を余儀なくされていることになります。
しかも実際の流通段階では、同一品種(グレード)であっても、製紙メーカー、銘柄によって、色相や風合いなどの品質に差があります。このため、同一グレードでもメーカーが異なれば混用されることはまれで、同じ用途や仕事では色違いや、場合によっては紙厚さの違いなどによってトラブルを起こすおそれがあるのでそれらを防ぐために、同一メーカーの同一銘柄が指定されるか、万一、メーカー・銘柄が違えば仕分けして使用されるのが一般的です。
このように同一品種(グレード)でも製紙メーカー別、銘柄別の種類があり、こういう面でも紙の種類の多さを示しております。
しかし、このように種類は多くても、紙それぞれが用途に応じた適性を付与されて作られていますので、適性に準じて使用しなければなりません。
適性に応じて使用されれば問題ありませんが、意外な使われ方をされることもあります。この場合には、うまくいくこともありますが、失敗のほうが多いので、それぞれ使用される紙の位置づけと適性をよく理解をしておく必要があります。それぞれの紙には適材適所があるわけです。
本稿では、紙の基本的な性質や特徴・品質(以下、品質特性)に触れ、用紙の取り扱いや印刷など市場で発生するトラブルへの対応その他について紹介していきます。
紙の品質特性
まず最初に紙の主な基本特性とそれに関連する主な品質項目を示し、品質特性としてまとめて掲げます(表1)。
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などです。
ところで、紙は3つの基本機能を持っています。その紙の3大基本機能とは、
①情報を記録し、かつ保存できること
②物を包み保護すること
③液体を拭き取り、かつ吸い取ることですが、これら3本の機能は上記、品質特性を持っていることに起因しております。
これらの機能を柱に、紙の優れた特徴、すなわち、軽くて薄いにもかかわらず風合いが良く美しいこと、かつ一般的に白く、不透明な平面であるため取り扱いが便利なこと、環境への害が極めて少ないことや保存性が良いこと、また再生ができること、比較的安価でしかも入手しやすく、手軽に持ち運びしやすいことなども紙の持つ特長で大きな利点といえます。
これらの利点に付加して、多様化する市場ニーズに対応してさらに幾つかの機能・用途開発がされてきており、紙の種類・品種構成の多様化が進んできております。
このように、これらの紙の持つ有利な機能・用途・汎用性により、日常生活における紙の重要性はこれからも変わらないと考えます。
そのため紙を使用(加工ないし印刷など)するときやトラブル発生防止、発生時の対処などをおこなう場合には、紙の持っている基本的な特性について、あらかじめよく理解しておく必要があります。
また紙を運搬、保管、断裁などで取り扱ったりする場合にも、紙という商品を包んでいる包装紙も含めて紙の知識は必須となります。
そういう面で紙を作る人、売る人、使う人はもちろんのこと、紙を取り扱う人も、それぞれの持場・立場で紙の用途や特性などについて、あらかじめよく理解しておく必要があります。
しかも紙の持つ多くの品質特性が、原料、製造方法、技術力、コスト面などの制約で、すべてが満足しているとは限りません。万能ではありません。
また、品質が両立しないこともあります。例えば、同一品種で平滑度(表面の滑らかさ)と紙の厚さとの関係で平滑性が良く、かつ紙厚もほしいとの要求に対して、前者は密度が高く引き締まった紙の傾向になるのに対し、後者の紙は逆に密度が低く、ふわっとした特長を持たせなければならないというように、両者は相反している面があり、両立しにくいわけです。このため、「平滑性が良く、かつ紙厚もほしい」と漠然とした要求でなく、もう少し要望を明確にする必要があります。
要求を理解した上で、両者が満足して両立できる方法はないのか、あるいは両者のうちどちらを優先するのかなど、いずれかを選択をするケースがありますので、要求者と作る側とはよく話し合って実行できる品質仕様を決めていくことが大切です。
このようにして紙の持つ諸特性のうち、用途面・機能面を考慮してプラス面は活かし、マイナス面は改善できないか、あるいは補いながら紙を有効に活用していくことが重要となります。