紙の基礎講座(13-1) 紙と印刷適性についてⅠ 印刷適性とは

トラブル対応、その前に(9)…紙と印刷適性についてⅠ 

今回は、紙と印刷適性の基礎知識です。なお、印刷機と印刷インキの基礎知識はこのシリーズでは割愛しますが、是非身につけておいてください(ホームページ「紙への道」印刷について をご参照ください)。

 

印刷適性とは、紙と印刷適性

印刷適性(printability)とは、目的にかなった良質な仕上がりの印刷物を得るために、紙などの被印刷体や印刷インキ、ロールなどの印刷諸材料が具備すべき性質をいいます。その中で印刷諸材料としては、主に紙と印刷インキの両者に重点が置かれます。

印刷インキに求められる性質としては、印刷機上では乾かず、紙などの被印刷体に転移された後に、より速く乾くことや安定性がよいことのほかに、粒度、粘度、透明性、隠蔽性などがあります。

ここでは紙の印刷適性について述べますが、紙の多くは印刷されます。蛇足ながら、ここで印刷用紙について触れますが、印刷用紙とは、家庭用薄葉紙や絶縁紙などを除いて大部分の紙は多かれ少なかれ印刷されます。しかし、これらをすべて印刷用紙とはいいません。おおまかな定義としては、一般の印刷会社印刷され、印刷物として見たり読んだりすることが主要目的である紙を印刷用紙といいます。従って、新聞用紙は一般の印刷会社印刷されておりませんので、印刷用紙の分類に入っておりません。なお、分類上の印刷用紙には、非塗工印刷用紙と微塗工印刷用紙、塗工印刷用紙、特殊印刷用紙があり、印刷効果を高めるために白色顔料に接着剤などを加えて作った塗工液(塗料、コーティングカラー)を塗って表面平滑性を改善したのが塗工紙や微塗工紙で、塗工処理をしないのが非塗工紙です。

ところで印刷適性は、前述のように分類されている印刷用紙だけでなく、印刷されるすべての用紙(以下、印刷用紙)に求められます。その印刷用紙に要求されることは、異常なく印刷され、かつ期待される刷り上がりが得られることです。この前者を印刷作業適性(印刷作業性)、後者を印刷品質適性(印刷効果)と呼び、両方を含めて印刷適性といいます。

例えば、紙の表面が弱くて印刷時に紙むけが発生したり、紙ぐせが悪くて印刷しにくいことなどが印刷作業適性であり、インキの付着が劣り印刷物の見栄えが悪いなどが印刷品質適性に属します。もう少し言いますと、紙の不透明性、白さ、インキの受理性、紙の反対側に滲まない(裏抜けしない)適度の吸油性など、印刷物に必要な性質が印刷品質適性です。

また、印刷で紙表面の塗工材料または繊維が剥離して版、ブランケットなどを汚さない表面強度や、枚葉印刷時に1枚ずつ給排紙するために必要な紙の最低こわさ(剛度・腰)、輪転印刷時の巻取紙が引っ張られて断紙しないための紙力などが印刷作業適性となります。

そしてこの2つの適性は必ずしも両立せず、しばしば相反する要求となることがあり、現実には多くが両者のバランスを取って紙質が決定されます。

 

すばらしい素材、紙

さて、紙は素晴らしい素材です。そして平版、凸版、凹版などすべての印刷ができます。もう一度おさらいをしておきましょう。印刷では、紙などの被印刷物の表面に印刷インキを付着(転移)させ、付着インキが容易に取れない状態にすることが必要です。インキが印刷面から取れないように固着するには、被印刷物表面に凹凸や空隙(毛細管)があって、そこにインキが入り乾燥後固まる、いわゆる機械的・物理的に固着するか、被印刷物とインキ被膜との間に分子間牽引力(ファンデルワールスの力)、例えば、水素結合などの結合力が働いて付着することが必要です。

その点で、紙はセルロース繊維[繊維素(C6H10O5)n…セルロースの構造式]を基本として構成されており、分子内には親水性の水酸基(OH基)ばかりでなく、インキと親和性の強い親油性の基である>C-Hー(メチリジン基)を多数持っています。また、紙は繊維と繊維が絡み合い、結合して紙層を形成していますが、絡み合った繊維の間には微細な間隙があり、多孔質構造となっています。この親水性で、かつ親油性で、さらに多孔質構造を持つことが紙の最大の特徴であり、金属、陶磁器、ガラス、プラスチックフィルムなどの素材にない性質です。この特徴を持つことが、紙にペンによる水性インクでの筆記やオフセット印刷のように湿し水を使い、油性の印刷インキで印刷ができ、しかもインキが取れないように定着するわけです。

さらに、紙の中には空気が多く含まれておりクッション性があるため、紙と版あるいはブランケットとの密着性がよく、インキ転移がよくなります。また、紙が平坦であることも、どんな印刷方式でも印刷ができる大きな特長であり、紙の優位性になっております。

それでは、プラスチックフィルムなどへの印刷は、どんな考え方で行われているのでしょうか。印刷インキの乾燥は、被印刷物の中への浸透、表面上でのセット(不完全乾燥ながらインキ膜表面が固化した状態)、溶剤の蒸発などによって進行しますが、フィルムなどの表面には孔が開いていないため、インキ・水の非吸収体であり、空隙にインキが入り、いわゆる機械的・物理的に固着することが期待できません。そのため、一般的な印刷である湿し水を使用したり、酸化重合型のインキを使うオフセット印刷では印刷できません。

このため、印刷インキの溶剤によって接着をよくする方式を取りますが、インキ中の溶剤を自由に選択できるのはグラビア印刷やフレキソ印刷であり、低沸点溶剤の蒸発によって乾燥・定着させる方式です。このためフィルムなどの非吸収体の印刷には、これらの印刷方式が適用されるわけです。

ただ、プラスチックフィルムをベースにした合成紙で、しかもオフセット印刷されているものがありますが、これはフィルムのみでは上記のように、印刷性・筆記性が劣るために、フィルムの内部に充填材・添加剤を加えたり、あるいは表面に塗工や処理をして多数の空孔を作り、紙的な性質を付与する措置が行なわれています。

それでもまだ、インキや湿し水の浸透性など紙と同等でなく、裏移りやブロッキングなどインキ乾燥性不良によるトラブルが起こりやすい傾向にあります。このため合成紙用の専用インキが使用されるなど、紙とは違う配慮がされております。

 

しかし、紙は万能ではありません。必要な品質適性を付与

このように、プラスチックフィルムなどは印刷の種類を選びますが、紙はどんな印刷でもできます。しかし、万能ではありません。幅広く、ある程度の印刷適性を持っていますが、すべて満足する印刷適性を持っているわけではありません。

印刷が同一でも、紙によってその品質には差があり、出来上がりが違います。その品質差は紙の原材料や製造法など種々の要因で生じます。ここで、生じる品質差について、紙の多孔質構造を例に述べます。

紙は多数の毛細管を持っている多孔質構造に成っています。湿し水やインキの浸透は、この毛細管孔の大きさと分布によって決まります。この細孔径が大き過ぎると、インキの吸収が大き過ぎ、浸透し過ぎて印刷光沢や鮮明性が悪化しますし、もっと浸透が過ぎれば、印刷裏面からも透けて見える裏抜けトラブルを起こすようになります。逆に細孔径が小さ過ぎると、インキが浸透されにくく、乾燥不良や裏移りのトラブルを起こしやすくなります。

そして毛細管の大きさや数は、紙質によって違っており、例えば、塗工紙の平均毛細管孔の半径は約0.06μm 、非塗工紙(原紙)は1桁大きい 0.6μm 付近にあり、それを中心にほぼ正規分布しています。

印刷直後のインキ中の顔料・ビヒクルは紙表面にある毛細管内に浸透(毛細管現象)していきますが、非塗工紙よりも塗工紙のほうが、毛細管が微細で数が多いため、液体であるビヒクルはより多く浸透しやすく、インキ乾燥が速くなります。また、塗工紙のほうが表面の毛細管径が小さいため、それより大きいインキ顔料粒子が表面に多く残ることになり、印刷光沢など印刷効果によい結果が得られることになります。

 

印刷インキは、印刷手段によって紙などの被印刷物の表面に、版の画像を形成・固定する有色材料ですが、一般に顔料などの色料(着色材料・色材)と、これを分散させるビヒクル(vehicle、媒質)を主成分として、諸特性を調整する少量の添加剤(補助剤)から成り立っています。

色料は印刷インキの着色成分であり、顔料および染料とがあります。またビヒクルは植物油などの油や樹脂、溶剤などを溶かし合わせて作った透明な液体です。展色剤ともいわれるように、顔料を分散あるいは染料を溶解して、印刷に必要な流動展性をインキに持たせ、印刷後は速やかに乾いて丈夫なインキ膜を印刷面に固着させる媒体的な機能を持っています。

 

このように紙によって特性が異なりますので、紙がすべての印刷で最良の品質を与えるとは限りません。印刷はできるかもしれませんが、紙によっては良質な仕上がりの印刷物とならず、満足する効果が得られないかも知れません。まして印刷方式や条件によって、用紙に要求される品質特性が違っていますので、出来上がりのよい紙にするには、その版式や印刷条件、用途などに合った専用紙にすることが必要です。すなわち、印刷適性には、多くの項目がありますが、その用紙がすべての特性を合格する必要はなく、用途に合った印刷適性があればよいのです。数ある品質特性の中で、必要な印刷適性が最低限ないしはそれ以上付与されていればよいのです。それが専用紙です。

 

  次のページへ


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)