郷里、米子(鳥取県)に戻っておよそ2年半。それ以来の久し振りの東京行きです。長男の結婚式と披露宴出席のためで、もちろん家内が同行です。以下、私にとって貴重な体験記です。
11月2日(日)、米子から空路、羽田(東京)へ。
杖つきで右手足が不自由な歩行は歩きづらく、広い空港内や搭乗機までは借用の車椅子で移動。そのためANA(全日空)の係員の方々には大変お世話になりました。車椅子を押していただいたり、帰りの搭乗のときはバスで搭乗機のところまで行き、そこから2人がかりで車椅子ごと私を抱えて階段を上り、畿内まで持ち上げていただいたが、全く恐縮してしまいました。
羽田からタクシーで港区芝にある「セレスティンホテル」まで直行。ここが宿泊するホテルです。「環境に優しい21世紀型ホテル」を目指して昨年春に創建された新しくて、大きく立派なものでした。反面、その広さは歩行の私にとって試練の場でした。エレベーターまでや、部屋・レストランへの行き来は厳しいリハビリでした。
しかし、14階の部屋から眺める東京の夜景はきれいでした。新しく観る「噂」のお台場の観覧車、そのネオンの色や形は、いろいろと変化し楽しませてくれました。久し振りに味わう東京の夜の眺めです。
翌3日(月曜日、文化の日)が結婚式で、式場は綱町三井倶楽部(港区三田)。本館は、大正2年、三井家の迎賓館として鹿鳴館の設計者として知られるジョサイア・コンドル博士の設計によって建てられ、西洋建築の傑作といわれています。当日は雨が降ったり止んだりのあいにくの空模様でしたが、緑の芝生に樹木の豊かな庭園を背景に優雅な佇まいを見せていました。
ここでも車椅子の準備や、要所要所には休むための椅子の用意など随分と気を使っていただきました。なお、はじめは車椅子で館内を移動していましたが、階段のところで4人がかりで車椅子ごと抱えて下ろしてもらいましたが、これでは手数と迷惑の掛け過ぎだと思い、その後は極力歩くことにしました。
しかし、歴史が古いため館内にはエレベーターがなく、2階にある式場や、また乾杯が行なわれた庭園には階段を移動しなければなりませんでした。手すりを使っての上り下りでしたが、矢張りかなりハードな歩行となりました。
このため東京行きの直前にマッサージをしてもらったのですが、全身が硬くなり、右手足が重く、動きにくくなってきたので、ホテルでもマッサージを頼みました。終わって、その後は家内がびっくりしたというほど身動きもせず、死んだように、ぐっすりと睡ってしまいました。
私は、このような状態でしたが、結婚式と披露宴は無事に済み、多くの方々の祝福を受け、二人の新しい門出を祝うことができました。多少センチメンタルになり、親馬鹿なところがありますが、逞しくなった新郎である息子と明るくて可愛く、綺麗な花嫁の姿を直に見ることができ、来て本当に良かったと思います。
帰途は4日の昼。
病気(脳出血)になり、右半分に麻痺が残る後遺症で、遠方への旅行は半ば諦めていました。しかし、「夢」とまで思っていた東京が現実となり、叶いました。全日空や三井倶楽部の方々には感謝の気持ちで一杯です。皆さんの善意があればこそ実現できたのです。
また、姉・兄夫婦や親戚の方々には大変心配を掛けましたが、やれるものだなあ、と自信がつきました。そしてこれを励みとして、さらに飛躍したいと強く思うようになりました。
そのために「百歩の道も一歩から」、あせらずに「少しずつは良くなっている筈だ」と信じて、しかも後遺症を友達にして、もっと体力と気力を付けて行きたい。
ホテルのいろいろな紙、酸性紙か中性紙か
宿泊したホテルの部屋やレストランにある新聞紙やティッシュペーパー、トイレットペーパーなど各種の紙を少量持ち帰り、それらが酸性紙か中性紙かについて調べました。チェックの仕方は、前回紹介しました紙の小片をライターなどで燃やして灰の色を確認する方法です。紙を燃やしたときに、灰が黒っぽくなるほうが酸性紙、白っぽく灰色になるのが中性紙でしたですね。それに、もうひとつ中性紙判別用「中性紙チェックペン」(㈱日研化学研究所)を使って調べました。このチェックペンは紙に小さく線を引くように書けばよく、中性紙ならば塗った色(紫色系統)は変わらず、酸性紙ならば黄色に変色し簡便に判別できます。
その結果を下表に掲げます。なお、燃焼法とチェックペン法とでは、結果が同じでしたので、表にはまとめて記してあります。
用紙 | 酸性紙か中性紙か | |
---|---|---|
新聞紙(日本経済新聞) | 酸性紙 | |
ティッシュペーパー(洗面室常備) | 中性紙 | |
トイレットペーパー | 中性紙 | |
楊枝(ようじ)用紙袋 | 中性紙 | |
紙ナプキン | 中性紙 | |
領収書 | 酸性紙 | |
メモ用紙(Non-wood Paper 非木材紙) | 酸性紙 | |
結婚式次第 (綱町三井倶楽部) |
表紙(塗工紙) | 中性紙 |
本文(上質紙) | 中性紙 |
肌や口などに触れるティッシュペーパー、トイレットペーパーや楊枝用紙袋、紙ナプキンなどは中性紙でしたが、新聞紙や領収書、非木材紙と印されているメモ用紙は酸性紙でした。なお、この酸性紙の中では、灰の色の黒さやチェックペンによる変色の程度から新聞紙が一番、酸性度が強いと推定されました。
また、綱町三井倶楽部での結婚式次第に使われている用紙の表紙は塗工紙、本文は上質紙でしたが、いずれも中性紙でした。
皆さんも日頃から紙に関心を持ち、家庭にある紙や、何処かに行かれたら、そこにある紙を持ち帰り、このようにチェックするのも面白いと思います。奥さんや子供さんと一緒に試されたらいかがでしょうか。あまりに身近にあり過ぎて何気ない紙が、より親しく科学的なものになるでしょうし、表面は同じ紙でも、中身に違いがあり、それぞれが個性を持っていることがお分かりになるでしょう。なお、チェックはボヤ・火災に注意して行なってください。灰皿などの中で紙のごく小片をそのままか、ピンセットなどで持って行なったほうが無難かも知れません。
ここでもう一度、各種類の紙の一般的な酸性度(酸性紙か中性紙か)を整理し、下表に掲げておきます。
分類・理由 | 代表例 | |
---|---|---|
従来から酸性抄紙 | 新聞用紙、板紙、機械抄き和紙など | |
中性抄紙 | 古来から中性抄紙 | 手漉き和紙 |
機能(品質)保持のため当初から中性抄紙 | インディアペーパー、ライスペーパー、防錆紙など | |
衛生上、肌や口などの安全・安心 | ティッシュペーパー、トイレットペーパー、箸・楊枝用紙袋、紙ナプキンなど | |
製造上の合理性などのため | 塗工原紙(塗工紙)、上質紙など | |
紙の延命・保存性向上 | 写真用紙、「千年紙」(王子製紙銘柄…OKプリンス上質21)など |
注
①塗工紙は、塗工原紙に顔料や拙着剤などから成る塗料を塗布して造りますが、その顔料として炭酸カルシウム(炭カル)が多く使われるようになりました。炭カルは化学式CaCO3で示されるようにアルカリ顔料であるため酸性抄紙の中では、硫酸バンドと化学反応を起こし炭酸ガスを発生して泡立ちが生じるとともに、不溶解性物質である硫酸カルシウムを生成するために、トラブルとなり使用できません。このために炭カルを使用するには中性~アルカリ系で抄紙することが絶対条件となります。そのため現在、塗工紙のほとんどは中性紙として抄造されています。
なお、表中、中性抄紙の理由として「製造上の合理性などのため」とありますが、これだけでなく中には、「紙の延命・保存性向上」などの複数の目的を持った品種もあります。
一方、新聞用紙や中質紙は、従来から酸性抄紙が一般的となっています。ところで、新聞用紙には新聞古紙が半分以上配合されていますが、その新聞古紙にの中にはチラシが含まれています。チラシの多くは、塗工紙や上級紙であり中性紙です。そのため、それらを含む新聞古紙をアルカリ性で脱墨処理して古紙パルプ(DIP)を作り、それを酸性にして新聞用紙を抄造しています。この酸性に戻すロスをなくすために、新聞用紙の中性紙化の検討が進んでいます。長年、酸性紙である新聞用紙の中性紙時代が来るかも知れませんね。
②インディアペーパーは、辞書用の薄葉印刷用紙のことで、もとは中国の唐紙(とうし)など薄葉上質紙を模して、木綿・亜麻・マニラ麻を原料としてイギリス・オクスフォードで作ったものですが、これをさらに日本で辞書用に模倣したのが最初です。麻・木綿・化学パルプを原料として炭酸カルシウムを多く内添して生産し、不透明度が高く、丈夫できめの細かい洋紙です。坪量20~30g/m2程度で、辞書・聖書などに使われます。
③ライスペーパーは巻たばこの巻紙のことです。シガレットペーパーとも言います。非常に薄く、坪量は21g/m2の薄葉紙で、白くて不透明度が高く、異臭がないこと、さらにたばこの葉と燃焼速度が同じになるように配慮されたり、灰がたばこの内側に丸まるように固まりやすくするために、紙中に助燃剤や炭酸カルシウムを20%以上含有されて作られております。亜麻・麻・木綿を主原料としており、通気性を高くするためにコロナ放電によりごく微小な孔をあけることもあります。
なお、ライスペーパーは文字通り、お米の紙ですが、ベトナム料理の代名詞と言われるものに、米の粉から作られた皮で紙のように薄く色の白さを特徴としていますが、これに食べ物を巻いて食べます。この薄い皮をライスペーパーと言います。
また、中国南部や台湾産の通脱木(つうだつぼく、カミヤツデの別称=rice paper plant)の円柱状の髄を、周囲から薄く剥いで紙状にしたものをライスペーパー[通草紙(つうそうし)、Chinese rice paper]と言いますが、造花の材料などに用いられました。
たばこの巻紙のことをライスペーパーという由来は、これらから来ていると言われていますが、諸説があるようです。
④防錆紙とは、鉄鋼などの金属材料の錆び防止用として、弱アルカリ性で抄いた紙の表面に防錆剤を塗布した紙のことを言います。金属簡にはさむ合紙などとして使います。
⑤千年紙とは、王子製紙が2000年の春に、1000年劣化しない紙(銘柄 OKプリンス上質21…上質紙系)を開発・発売。この紙を「千年紙」と呼んでいます。紙の強度劣化・褪色の原因となるリグニンなどをさらに除去し、硫酸アルミニウムや蛍光染料をまったく使用しないなどの処理をした長期保存性に優れた洋紙。
(2003年12月1日付け)