FAQ(10) 中性紙とは

(1)中性紙とは

もともと洋紙(西洋紙)は酸性紙ですが、歴史の長い欧米では以前から、文書の長期保存対策などの目的で中性抄紙化が進んでおります。わが国でも近年、紙の劣化の原因が硫酸バンドに起因することが明らかにされたため、文書の長期保存対策などから、これを使用せずに中性ないし弱アルカリ性で製造する中性抄紙法が、開発実用化されてきました。

中性紙とは、紙の保存性、耐久性等を高めるために原紙に硫酸バンドを使用しないサイズ処方や、抄紙時に薬品処理をして中性化(抄紙pH:7~8くらい。なお、pH=7が中性)した紙をいいます。

これに対して、一般紙、すなわち酸性紙はロジンサイズなどのサイズ剤を硫酸バンドで定着する、抄紙pHが 4~6くらいにある紙をいいます。

 

わが国では中性抄紙は、例えば辞典用紙、ライスペーパー、防錆紙などの特殊紙製造で以前から行われていましたが、中性紙の紙全体に対する比率としては 2~3%レベルと少なく、特異な位置づけでした。

しかし、1982年ころから、「百年後、本はボロボロ」とか「古書・文献が消える」などとマスコミでも大きく取り上げられ、文書類の保存性や紙の寿命への関心が高まり、一般紙である印刷用紙を中心に中性紙への転換が進んできました。

中性紙が全体の何%を占めているか統計資料がないので不明ですが、塗工紙や上質紙を中心に、特に特注品の多い出版用途やノート類、PPC(plain paper copier、普通紙複写機)用紙の中性紙化が進み、現在では上質紙系の半分以上、また、ノート類、PPC用紙や塗工原紙ではほとんどが中性抄紙になっていると思われます。

なお、中性紙の紙質面でのメリットは、耐久性のほかに、インキ乾燥性が良いとか炭カル高配合による白色度、不透明度、しなやかさが向上するなどが一般的に挙げられます。

また、中性紙は酸性紙と同様な条件で印刷でき、特に両者で差をつける必要はありませんが、軽オフ(小型の、いわゆる軽オフセット印刷機を使用しての印刷のこと。版としてペーパーマスター(紙版)を使用)で汚れが発生することがあります。その場合は、対策として湿し水のpH調整などを行う必要があります。

 

ここで酸性抄紙から中性抄紙に転換する場合の主な原紙条件の変更点を次にまとめます。

 変更点 変更内容備考
抄紙pH pH4~6(酸性抄紙)から7~8(中性ないしアルカリ抄紙)へ

中性抄紙はアルカリ抄紙ともいわれ、抄紙工程における原料・白水系のpHを 7~8くらいに調節します。一般紙のpHは 4~6位の酸性領域にあり酸性紙(酸性抄紙)と呼ばれています。

填料 クレーから炭酸カルシウム(炭カル)へ

炭カルは化学式CaCO3で示されるようにアルカリ顔料であるため酸性抄紙系の中では、硫酸バンドと化学反応を起こし炭酸ガスを発生して泡立ちが生じるとともに、不溶解性物質である硫酸カルシウムを生成するために、トラブルとなり使用できません(タルクも一部使用)。このために炭カルを使用するには中性~アルカリ系で抄紙することが絶対条件となります。

なお、填料は、紙の不透明度・白色度・平滑度・インキ吸収性などを向上させる目的で添加されますが、種類としてクレー(白土)、タルク(滑石)などが多く用いられてきましたが、近年は中性紙の増大で炭酸カルシウムが増えてきています。

クレーやタルクの替わりに安価で、国内に豊富にある石灰石から取れる炭酸カルシウムを填料として使用するわけです。

内添サイズ剤 ロジンサイズ剤などから中性抄紙で紙に定着するアルキルケテンダイマー(AKD) またはアルケニル無水コハク酸(ASA) や他の中性サイズ剤に切替えます。

なお、硫酸バンドは原則的に使用しないが、系内の汚れ防止などのためにごく少量使うことがあります。

 

さらにもう少し紙の耐久性(保存性)について説明しますと、酸性紙の場合、定着用として酸性薬品である硫酸バンドを使用していますが、これは欧米で1850年ごろから一般的になったバンド~ロジンサイズ系の抄紙法であり、バンドは成分であるアルミニウムと硫酸に解離し酸性を示します。

このうちアルミニウムはロジンサイズと結合、セルロース繊維に定着しサイズ効果を出すとともに、填料や微細な繊維を紙中に定着させる歩留り向上剤としての役目もしております。

残された硫酸イオンにより紙は酸性となりますが、紙は酸に対して弱く、セルロース分子が分解されて強度が低下していきます。

すなわち酸はセルロースに触媒作用をし、加水分解を促進させ低分子化します。加水分解が進むと繊維の結合が緩み強度が失われ劣化が進んでいきます。これが歳月の経過とともに紙がいたみ、ボロボロになる所以です。

なお中性紙の場合、原則的にこの硫酸バンドを使用しませんので耐久性があり、中性紙の寿命は、酸性紙の50~100年に比べて 4~6倍あるとされております。

 

和紙の保存性について

前述のように、酸性紙が劣化してボロボロになるのは、紙へのインキの滲み防止の目的で添加するロジンという松脂(まつやに)からとる薬品を紙に定着させるために硫酸アルミニウムを加えますが、これが酸性で、洗浄後も紙に残存し長い年月が経過すると紙の主原料であるセルロースを崩壊させるためといわれています。

ところで、現存している日本最古の紙は、正倉院に残されている大宝2(702)年の筑前(今の福岡県の北西部)、豊前(大半は今の福岡県東部、一部は大分県北部)、美濃(今の岐阜県の南部)で造られた戸籍用紙(いずれも楮紙)ですが、これらに代表されるように今なお1000年以上も経た正倉院の御物がしっかりと原形を保っているように、和紙の寿命は驚異的といわざるを得ません。

この正倉院の御物に見られるように、なぜ和紙の保存性が優れているのでしょうか。

まず保管環境がよいこともあげられますが、それ以外に硫酸アルミニウムや苛性ソーダなどの強い薬品を使わないで、木灰、石灰などの灰汁(あく)を使用するために紙漉きのpHが弱いアルカリ性であること、さらに黄色く変色しやすく、劣化しやすいリグニンという物質の残存量が少ないためです。また原料である楮など靱皮繊維の長さが木材パルプ繊維よりも長い上に、蒸煮・叩解の条件が洋紙に比べて緩和なために繊維の損傷が少なく、繊維の切断もほとんどなく自然のままの丈夫さで強い状態が保たれているからです。

なお、和紙は楮などの外側にある皮が原料として利用されるのに対して、洋紙は木の外皮は棄てられ内部の木質部が使われます。すなわち、和紙が楮、三椏、雁皮などの薄い外皮(黒皮)を取り除いた表皮部の白皮を原料(靭皮繊維…非木材パルプ)にし、しかも内部の木質部は燃料などにされているのに対し、洋紙のほうは、木材である松やブナなどの針葉樹、広葉樹の外樹皮は取り除き、内側の木質部を原料にした木材繊維(いわゆる木材パルプ)が使われております。参考までに主な製紙原料の特徴を表1に示します。

表1.主な製紙原料の特徴
  平均繊維長(mm) リグニン(%) 備考
楮(白皮) 6~20 3~8 和紙原料、靱皮繊維
広葉樹 0.8~1.8 17~28 洋紙原料、木質繊維
針葉樹 2~4.5 20~35 洋紙原料、木質繊維

 

ところで王子製紙は2000年の春に、1000年劣化しない紙「千年紙」を開発・発売しました(銘柄 OKプリンス上質21…上質紙系)。王子製紙のPR、情報によれば、

  1. リグニンなどパルプに残り、紙の強度劣化・褪色の原因となる物質をさらに除去すること
  2. 硫酸アルミニウムをまったく使用しないこと
  3. 蛍光染料をまったく使用しないこと

などの処理を行い、光や熱によってセルロースを切断する引き金となったり(強度劣化)、化学反応を引き起こしたり(褪色)して、紙の劣化を進行させる物質を取り除き、生まれたのが、強度劣化が低い、褪色しない、そして白色度の低下を抑えた紙、すなわち“千年紙"というわけです。この究極の長期保存性に優れた紙、「千年紙」は洋紙では初めてではないでしょか。

 

(2)酸性紙か中性紙かの見分け方と紙(酸性紙・中性紙)の一般的な表面pH

酸性紙か中性紙かの見分け方は、JIS法やpH試験液を直接、紙面に塗布し判定する方法がありますが、簡便的には紙を燃やしたとき、紙中の硫酸分による炭化促進によって灰が黒っぽくなるほうが酸性紙で、その作用がなく白っぽい灰色になるほうが中性紙です。表2にまとめておきます。

表2.酸性紙か中性紙かの見分け方
紙を燃やす(簡便法) 灰が黒っぽくなる方が酸性紙、白っぽい灰色になる方が中性紙
pH試験液の塗布 pH試験液を紙面に塗布し判定
JIS法(JIS P 8133) 紙を浸した水(熱水、冷水)抽出液のpHをガラス電極pHで測定

 

次に紙(酸性紙・中性紙)の一般的な表面pHを示します。

  • 非塗工紙:酸性紙 3.5~5.0、中性紙 6.0~7.0
  • 塗工紙 :酸性紙 6.5~7.0、中性紙 6.5~7.5

(紙表面に塗布される塗料のpHは、9~11くらいのアルカリ性のため塗工紙のpHは非塗工紙よりも高くなります。また、紙の製造条件が決まれば、pHのばらつきは少なく、ほぼ一定値になります)

 

参照

 

参考・引用資料

  • 日本製紙連合会 機関紙「紙・パルプ」2002年10月号 中嶋隆吉著「」

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)