コラム(71-7) 紙・板紙「書く・包む・拭く」(6)進む若者と予想される高齢者の「新聞離れ」

進む若者と予想される高齢者の「新聞離れ」

さて「新聞離れ」ですが、最近、インターネットの普及に伴なって、若者の「活字離れ」「新聞離れ」が言われています。それを裏付ける資料を紹介しておきます。今年9月に平成18年度「国語に関する世論調査」の結果について文化庁から発表がありました(調査対象:全国16歳以上の男女、調査時期:平成19年2月14日~3月11日)。そのなかに「新聞・雑誌・ウェブニュースをどの程度読むか」を尋ねた項目がありますが、それによれば、その結果は以下のとおりになっています。

男女全体で見ると、新聞を「よく読む」と「時々読む」を合わせた「読む(計)」が約8割(79.4%)で、「全く読まない」と「余り読まない」を合わせた「読まない(計)」は約2割(20.6%)を大きく上回っています。

また雑誌については、「読む(計)」が4割台前半、「読まない(計)」は5割台半ばとなっており、「活字離れ」の傾向が窺えます。なおウェブニュースについては、「読む(計)」は3割台前半(32.1%)、「読まない(計)」は6割台後半(66.9%)となっています。

これだけだと、新聞を「読む(計)」が8割近くと高く、一方、雑誌・ウェブニュースは「読まない」の方が、半数以上と高くなっており、新聞は問題なさそうですが、表4のように年齢別に見ると問題が浮き彫りになっています。

表4.「新聞・雑誌・ウェブニュースをどの程度読むか」文化庁調査(単位%)

読む(計)読まない(計)
60歳以上 50代 40代 30代 20代 16~19歳 60歳以上 50代 40代 30代 20代 16~19歳
新聞 83.7 87.6 85.9 74.0 53.7 50.6 16.3 12.4 14.1 26.0 46.3 49.4
雑誌 33.9 41.6 49.0 53.7 65.2 49.4 66.1 58.4 51.0 46.3 34.8 50.6
ウェブニュース 9.4 30.5 43.8 61.1 56.7 49.4 88.6 68.6 55.5 38.9 43.3 50.6

 

年代別の結果は新聞の場合、「読む(計)」は50代で最も高く(8割台後半)、次いで40代、60歳以上が80%超えで続き、40代以上で多く新聞が読まれています。また、30代も約4分の3の人が読んでいます。それに対して、逆に新聞を「読まない(計)」は、16~19歳で49.4%と最も高く、約半数が読まないとなっています。次いで20代が46.3%と多くなっています。このうち16~29歳の若い世代では「全く読まない」が17.7%に上っており、若年層の「新聞離れ」が浮き彫りになっています。

なお、表4には不記載ですが、特記すべきは60歳以上で新聞を「全く読まない」が7.1%あり、2~3%の40~50代に比べて2~3倍多く、これからもますます増加する高齢者の「新聞離れ」増も予想され危惧されます(文化庁 国語に関する世論調査 平成18年度参照)。

新聞に対して、ウェブニュースの場合は「読む(計)」は30代で最も高く(約6割)、次いで20代、16~19歳となっており、40代以上よりも若い人のほうがウェブニュースを読み、情報を入手していることが明らかになっています。なお、雑誌については「読む(計)」は20代で最も高く(6割台半ば)、「読まない(計)」は、60歳以上で高く(6割台半ば)なっています。

もうひとつ紹介します。去る9月22日号の週刊ダイヤモンドに「新聞没落」というショッキングな題で特集が掲載されました。いろいろなデータを使い新聞業界の状況や問題点の分析がされており、新聞業界の「構造不況」の実態が克明ながら分かりやすく紹介されています。この中で新聞閲読率の「老高若低」が進み、「活字離れ」の危機が忍び寄ってきていると指摘されています。すなわち今年8月後半~9月前半に、インターネット上で全国の男女1000人(20~60代の200人ずつ)を対象に調査した結果、「新聞を読んでいますか?」という質問に、「読んでいる」が60代は90%以上だったのに対し、20代は65%にとどまったというものです。しかも、世代が低くなるにつれ、「読んでいる」という割合が減っており、はっきりとした「老高若低」現象が起っています。さらに、新聞を「読んでいない」と答えた20代に理由を尋ねたところ、20代男性の86.7%(女性66.7%)が「インターネットから情報が得られるから」と答えており、インターネットが若年層の「新聞離れ」の最大要因になっています。また、女性の61.5%(男性53.3%)が「テレビから情報が得られるから」と答えています。気楽に見れるテレビも若者にとっては新聞以上に大きな情報源となっているようです。なお、今回の調査がインターネットを介しているため、紙媒体に対してやや厳しい回答が出る傾向は否めないとしながらも「ネット」依存で、「新聞離れ」している若者の実態が、先の文化庁の調査同様、浮き彫りになっています。

さらに特集「新聞没落」は、現在の20代がこのまま新聞を読まずに年をとり、団塊の世代である60代が、視力低下や高齢化で購読をやめていくとどうなるのか。新聞経営危機の構図は根深く進行している、と続きます。

また文中で「経営環境が悪化しているのに、新聞社の経営者たちは、いまだに遠くの足音と思っている」と毎日新聞社元常務で「新聞社―破綻したビジネスモデル」(新潮社)の著者、河内孝氏は警鐘を鳴らしていますが、「この危機感のなさこそが、新聞社が抱える最大の危機といえるかもしれない」としています。

ところで先の日本新聞協会の「各メディアの印象・評価」調査に戻りますが、この結果で若者に好まれているインターネットが持っている「情報が速い」や「時代を先取りしている」の優位性と民放テレビや雑誌が持つ「楽しい」は、新聞にとっては印象・評価の低い項目となっています。新聞はこれらの点をさらに工夫・改善していけば、「新聞離れ」が少しでも減るのではないでょうか。「己を知り、敵を知らば百戦危うからず」という格言があります。自分(新聞)の長所と弱点を知って、しかも相手(他メディア)のこともよく知って、顧客の視点で事に当たれば道が拓かれるかも知れません。

 

新聞社のネット分野進出と、さらなる進化に期待

今年4月6日増大号の「週刊朝日」に近未来ネット対談「新聞とテレビがなくなる日」(電通総研前社長藤原 治vs田原総一朗)の記事が載っていましたが、そのなかで「ネット社会ではメディアは変わらざるをえないのに、危機感がまったくないし、変わろうとしない」とか、「最近やっと危機感を持つようになったけど、『さあ、どうすればいいのか』という対策がない」とあります。しかし、ここにきて新聞業界も動き出しました。

この特集「新聞没落」に反論するように、10月1日に日本経済新聞社、朝日新聞社、読売新聞グループ本社の3社は、インターネット分野の共同事業と新聞販売事業に関する提携を発表しました。新聞社がネット上でニュースを配信することにより、新聞への信頼、期待を高め新聞の購入につなげる「Paper with IT」というスローガンを推し進め、「ネットを活用して新聞を断固維持していく」とのことです。崖っ縁に立っている新聞社の必死さと脱出しようとの覚悟、意気込みが伝わってきます。

さらに新聞業界も「ネット社会の現実」を見据え出しました。新聞週間(日本新聞協会主催)は、毎年10月15日から21日(1週間)にかけて行われる新聞界のメーンイベントですが、今年(2007年)の新聞週間も始まり、メーン行事である第60回新聞大会が10月16日、新聞協会加盟の新聞・通信・放送各社幹部ら555人が参加して長野市で開催されました。そこで採択された「新聞大会決議」は次のとおりです。

球環境が悪化し続け、絶え間ない紛争が世界を覆っている。内外で格差が拡大し、人々は平和で希望のもてる社会へ、正確な報道と説得力ある言論を求めている。新聞は、ネット社会の現実を見据え、あふれる情報の海の確かな指標として、読者と強い絆で結ばれた存在でありたい。60回を迎えた新聞大会にあたり、われわれは、報道の使命を改めて深く心に刻み、その達成に全力をあげることを誓う。」

第60回新聞大会、人間で言えば再び生まれ還る「還暦」を迎えたことになります。60年前は敗戦後の混乱期。どん底のなかから新聞大国とか世界一ともいえるほどに立ち直った新聞業界ですが、ネットの普及で情報の速報化や無料化、グローバル化が急速に進む今、新聞は再び混迷の時代を迎えています。大会決議のなかに「新聞は、ネット社会の現実を見据え、あふれる情報の海の確かな指標として、読者と強い絆で結ばれた存在でありたい」とあるように、ネット社会の試練を乗り越え、新聞の役割を果たしていってほしいと願うものです。

そして「ネット時代の新聞」。このなかで米国を始めとして世界的に低迷している新聞業界。わが国の新聞もこのまま次第に縮小していくのでしょうか。あるいは巻き返して再び復権するのでしょうか。若者や読者にとっても、広告主にとっても、より「魅力ある新聞」づくりへの関係者のさらなる努力と決断が重要となってきたようです。

既述のように、長く続いた古典的とも言える活版(凸版)印刷を打破し、近代的なオフセット印刷化に切り替え、生まれ変わった新聞。かつては下印刷紙に属す更紙(ざらがみ)クラスでゴワゴワした紙であった新聞用紙は、薄くなり、今や紙面も滑らかで白く、品質グレードが上がり、綺麗になったカラー刷りも驚くほど多くなっています。このようにここ2、30年で新聞は大きく進化してきました。これからも進化していくことでしょうが、「新聞」の進化のみならず、「新聞経営」の大きな進化にも期待したいものです。

(2007年11月1日)

 

参考・引用文献

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)