コラム(88-1) 「紙はなぜ」(8) 紙はなぜ、印刷できて、書けるのでしょうか? 1

紙は、なぜ印刷できて、書けるのでしょうか?

今回は「紙はなぜ印刷できて、なぜ書けるのでしょうか」がテーマです。

 

紙は、なぜどんな印刷でもできるのでしょうか

まず、「紙は、なぜどんな印刷でもできるのでしょうか」についてです。印刷には平版、凸版、凹版、孔版の四つの版式がありますが、印刷技術の進歩発展によって、水と空気以外ならほとんどのものに印刷ができるようになりました。実際、私たちの生活の中には、紙だけでなく、金属、陶磁器、ガラス、プラスチックフィルム、布(以下、プラスチックフィルムと表現)などに印刷したものを多くみかけます。

しかし、これらは同じ印刷方式で印刷されるわけではありません。インキを吸収しないプラスチックなどの素材は、すべての印刷方式で印刷できなく熱処理などによりインキを定着させる印刷法やあらかじめ転写紙に印刷し、それを素材に転写させる方式などが採用されております。その点、紙は平版、凸版、凹版、孔版の四つの版式すべてで印刷ができます。この素晴らしい素材である紙はなぜどんな印刷でも万能的に印刷ができるのでしょうか。

印刷されるには被印刷物(紙など)の表面に印刷インキを付着(転移)させ、付着インキが容易に取れない状態にすることが必要です。インキが印刷面から取れないように固着するには、被印刷物の表面にある程度の凹凸や空隙(毛細管)があって、そこにインキが入り込み乾燥後、固まる、いわゆる機械的・物理的に固着するか、被印刷物とインキ被膜との間に分子間牽引力(ファンデルワールスの力)、例えば、水素結合などの結合力が働いて付着することが必要です。

この点、紙のほとんどが木材を原料にしており、その成分であるセルロース繊維[繊維素(C6H10O5)n…セルロースの構造式参照]を主体に構成されており、分子内には親水性の水酸基(OH基)ばかりでなく、インキと親和性の強い親油性の基である>C-Hー(メチリジン基)を多数持っています。そのため紙にオフセット印刷のように湿し水を使い、油性の印刷インキで印刷ができ、しかもインキが取れないように定着するわけです。

さらに紙は繊維と繊維が絡み合い水素結合して層を形成しており絡み合った繊維の間には微細な間隙があり、多孔質構造となっています。

この親水性で、かつ親油性で多孔質構造を持つことが紙の最大の特徴であり、プラスチックフィルムなどの素材にない性質です。そのためプラスチックフィルムなどへの印刷は次のような方法で行われています。通常、印刷インキの乾燥は、被印刷物の中への浸透、表面上でのセット(不完全乾燥ながらインキ膜表面が固化した状態)、溶剤の蒸発などによって進行しますが、フィルムなどの表面には孔が開いていないため、インキ・水の非吸収体であり、空隙にインキが入り、いわゆる機械的・物理的に固着することが期待できません。そのため一般的な印刷である湿し水を使用したり、酸化重合型のインキを使うオフセット印刷では印刷できません。

このため、印刷インキの溶剤によって接着をよくする方式を取りますが、インキ中の溶剤を自由に選択できるのはグラビア印刷やフレキソ印刷であり、低沸点溶剤の蒸発によって乾燥・定着させる方式です。そのためフィルムなどの非吸収体の印刷には、これらの印刷方式が適用されています。

これに反して、紙は親水性で親油性、しかも微細な間隙が多数ある多孔質構造を持っており空隙率が大きいため紙の中には空気が多く含まれておりクッション性を持ち、紙と版あるいはブランケットとの密着性がよく、インキ転移がよくなります。また、紙が比較的平坦であることも、どんな印刷方式でも印刷ができる大きな特長であり、紙の優位性になっております。

このように、プラスチックフィルムなどは印刷の種類を選びますが、紙はどんな印刷でもできます。しかし、万能ではありません。幅広く、ある程度の印刷適性を持っていますが、すべて満足する印刷適性を持っているわけではありません。印刷が同一でも、紙によってその品質には差があり、出来上がりが違います。その品質差は紙の原材料や製造法など種々の要因で生じます。

このように紙によって特性が異なりますので、紙がすべての印刷で最良の品質を与えるとは限りません。印刷はできるかもしれませんが、紙によっては良質な仕上がりの印刷物とならず、満足する効果が得られないかも知れません。まして印刷方式や条件によって、用紙に要求される品質特性が違っていますので、出来上がりのよい紙にするには、その版式や印刷条件、用途などに合った専用紙にすることが必要です。すなわち、印刷適性には数多くの項目がありますが、その用紙がすべての特性を合格する必要はなく、用途に合った印刷適性があればよいのです。数ある品質特性の中で、必要な印刷適性が最低限ないしはそれ以上付与されていればよいのです。それが専用紙です。使用条件に合った専用紙を使うことが大切です。

 

現在の紙は、ほとんどが木材を原料にしておりますが、その木材はすべてのセルロース原料のなかでいちばん大量にまた広く使われております。木材の40~50%はセルロースで、20~30%はリグニン、そして10~30%がセルロース以外のヘミセルロースと多糖類からできていますが、パルプ化工程ではセルロース以外のリグニンやヘミセルロース、多糖類をできるだけ除去し、セルロースを取り出し紙にしているのです。

 

紙はなぜ書けるのでしょうか

印刷だけでなく、紙には鉛筆やペンなどで書けます。なぜでしょうか。鉛筆とペンと別々に説明します。まず鉛筆ですが、鉛筆で紙に書けるのは、紙の上に鉛筆で文字を書いたとき、鉛筆の芯(しん、黒鉛と粘土の混合物)が紙にあたって砕け、芯に含まれている黒鉛(主成分は炭素)の粉ができ、紙の表面にある細かな凹凸状になっている繊維にくっつくからです。この黒い粉が紙について文字として残るというわけです。

もう少し説明しますと、紙は無数の細かい繊維(セルロース)同士が絡み合ってできており、表面には微細な凹凸がたくさん存在しています。文字を書いたとき、紙に鉛筆の芯がこすりつけられる状態になります。その結果、削られた芯の粉が紙の繊維の隙間に入り込みます。一度入り込んだものは、少しぐらいこすっても落ちることはありません。そのため紙の上に文字として残ることになります。これが紙に鉛筆で文字などが書ける仕組みです。

これに対して、ガラスやプラスチックの表面には鉛筆で書けません。ガラスやプラスチックの表面は凹凸が少なく、つるつるしていて芯が残らないからです。なお、つるつるした紙よりも、ざらざらした紙の方が鉛筆で書いた字が濃く見えますが、これはざらざらした紙の方が、紙に当たったときに鉛筆の芯が砕けやすく、紙にたくさんの粉がつくためです。例えば印画紙に鉛筆で文字などを書くのが難しいのは、印画紙の表面が特別につるつるしてあり、プラスチックと同じようにあまりに平滑性がよいために芯が残らないからです。

 

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更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)