和紙紀行・夢の和紙めぐり(9) 五箇山和紙(越中和紙富山県東砺波郡平村)

※東砺波郡平村は2013年現在、南砺市となっています。

 

日本の秘境、あるいは陸の孤島などと呼ばれ、古くは加賀藩の流刑とされていた。そのため平家落人伝説など悲哀に満ちた話が多く残っている。そこで和紙づくりも行われていた。五箇山和紙と言われる。富山県東砺波郡平村のことである。(注)五箇山は藩政時代、加賀(今の石川県の南部区)百万石の領

今回は、その「平村」訪問記である。

 

平村

和紙めぐりをしてから四日目。4月28日(1999年)水曜日の朝、候は良好。昨夜泊まった国民宿舎五箇山荘を出立する(五箇山荘)。

東砺波郡は上平村、平村、利賀村の3村から成っている。そして平村は、宿舎のある上梨、下梨、世界遺産(1995年登録)になっている相倉合掌造り集落のある相倉(あいのくら)や五箇山和紙の里がある東中江などの域に分かれている。五箇山の名は、上梨谷・下梨谷・赤尾谷・小谷・利賀(とが)谷の五つの谷にある小集落群が由来とされ、平村の「平」の文字は、平家の落人が隠棲し、その子孫が住み着いたのでつけられたとの伝承があるという。

宿舎の前を流れている庄川を渡るとすぐに国道156号線である。途中、合掌造りの民家である村上家(国指定重要文化財)の前を通ったのでタクシーを止めてもらい写真を撮る。

 

村上家

典型的な合掌造りの民家で、江戸中期頃の建築で、当時のままの建築様式を残す。五箇山方の民家のうちで基本的な形式を持つ最もすぐれた構造で1重4階合掌正面妻入茅葺である。民族資料、塩硝や和紙の製造用具などを展示。昭和33年5月14日に重要文化財に指定された。(写真 村上家)

 

道の駅たいら

庄川に沿って通っている国道156号線を走り、東中江にある五箇山 和紙の里に到着する。ここに「道の駅たいら」があり、そこに平村和紙工芸研究館、和紙体験館、「やま」との対話館や平村郷土館がある。五箇山和紙の歴史と文化を伝える発信基になっている。(参照ウェブ)道の駅たいら(和紙の里)

それぞれをゆっりと見学。

  • 入館料 300円(全館共通)

 

 

平村和紙工芸研究館

平村和紙工芸研究館は、古くから平村の産業を支えてきた和紙づくり、その伝統技法の継承と保存、復興を目的としたもので、館内では、五箇山和紙の資料かあり、その歴史をたどることができる。また、和紙製品、製造工程などの紹介や全国各の有名和紙、パピルスをはじめとする世界の紙など様々な紙が展示してある。(写真 平村和紙工芸研究館)

森林の働きを学ぶ「やま」との対話館、五箇山の塩硝(硝石(硝酸カリウム)…火薬の原料)の製造工程、養蚕(ようさん)などの伝統産業や平村の歴史・産業を知ることができる平村郷土館と内容が豊富である。



五箇山和紙の歴史など 「やま」との対話館の資料「やまのいとなみ」

 

五箇山和紙

ここで五箇山和紙について記す。なお、越中和紙については、和紙紀行・夢の和紙めぐり(8) 八尾和紙(越中和紙…富山県・八尾町)参照。

五箇山和紙は、富山県東砺波郡の五箇山で生産される楮を原料とした和紙。五箇紙ともいう。

富山の和紙・五箇山

「ふるさと夢とやま」食と農とむらを考える情報誌NO.3

富山の和紙 五箇山和紙の里から抜粋

■五箇山和紙の歴史は古く、約600年前には紙を出荷していたという記録が残されている。ほとんど米がとれなかった五箇山では、夏は養蚕や炭焼き、冬は和紙漉きでお金を得て、お米を手に入れていた。その主な出荷先は加賀。八寸紙をはじめ傘紙、堤灯紙など、百万石の大都市の暮らしになくてはならない存在であった。なかでも八寸紙は、障子から書き物、神仏へのお供え用まで幅広く使われた紙で、当時の紙の基本形。八寸という紙の幅にあわせて障子の桟がつくられるなど、暮らしにまつわる寸法の基準にもなった。また、傘用、堤灯用など用途に合わせて紙の厚さや大きさが決められ、薄くても強い五箇山和紙は、どこへ出しても引っぱりだこ。こうして昭和30年代頃まで、五箇山のほとんどの家で紙すきが行われていた。

■五箇山和紙の特徴は、何といっても原料の楮にある。楮は、繊維が長く強いのが特徴。他の代表的な和紙の原料、ミツマタ、ガンピと比べても倍近くの長さがある。特に五箇山の和紙は楮の量が多いため、紙の強さでは折り紙つき。また、繊維が柔らかいので紙にしてもしなやかで、温かみも感じられる。

世界遺産で一躍有名になった合掌造りの民家も、昔の窓は障子戸だけで、雨戸などはありませんでした。雪深く湿度の高い冬を障子戸だけでのりきれるのは、やはり紙が強いから。現代のようなガラス戸や照明器具がない時代、障子ごしの雪明りは、大切な照明でもありました。

■現在もほとんど機械や薬品に頼ることなく、昔ながらの手作業でつくられる和紙は、今や貴重な存在。余計な混ざりもののない紙は、何百年も生き続けるという。楮100%の正直な紙が認められて、五箇山和紙は、桂璃宮の障子紙をはじめ、宮内庁や上野国立博物館などに保管される国の重要文化財の補修用に、なくてはならない存在になっている。

■一方で、和紙の新しい可能性を探る試みも続いている。しなやかな紙の特徴を活かしたクッションやのれん、やわらかい表情を活かした照明器具も、光のインテリアとして人気を集めている。また、ちぎり絵をはじめ、様々な美術工芸品の素材や、版画や絵画など芸術家からの特注品まで、芸術を支える紙としても欠かせない存在になっている。…芸術になった和紙。

■和紙づくりの工程をざっとあげると、まず春のコウゾの植え付けに始まります。そして11月にコウゾを刈り取り、蒸して皮をはぎます。この皮からさらに黒皮をこすり落とし、晴れた日に雪上に広げて白くなるまで約1週間、雪さらしを行う。これで、ようやく紙の原料となるコウゾ皮ができあがる。

 

「世界遺産 五箇山の四季」パンフレットから

雪で埋もれた合掌家屋。その土間では和紙漉きが行われた。原料の楮は雪に晒される。雪の湿気と太陽の光で、雪のように白くなるという。凍える手を湯で温めながら漉いた五箇山和紙は、洗濯がきくと言われるほど強靭で優美な風合いがある。

 

もう1つ 悠久紙(東中江和紙加工生産組合)の紹介

(参照ウェブ)東中江和紙加工生産組合

自家栽培の楮を雪にさらし、手透きで和紙に仕上げ日で板干しにする…。自然の力を最大限に生かし、さらに昔ながらの手作業で悠久紙を作り上げる。このこだわりが、独特の色つやと強靭さを生み、自然の力が素直に発揮される和紙になる。色紙も自然原料のみを使用し、草木染で仕上げる。

 

和紙体験館

次に和紙体験館に行く(写真 和紙体験館)。

見事な茅葺き(かやぶき)と欅(けやき)造りの合掌家屋である。ここでは和紙漉きの体験が誰でも気軽にできる。手漉きを申し込む。

  • 和紙手すき体験 500円/枚

美濃和紙に続く二度目の手漉き経験である。漉桁(すきげた)は小さいが均一にならなかった。これも世界に一枚しかないオリジナルの紙である。

 

(写真 手漉きをする)まだまだゆっくり見てまわればと思ったが、後の予定もあり五箇山和紙の里を辞して、平村下梨にある農事組合法人 五箇山和紙や世界遺産 相倉合掌造り集落および相倉民俗館に向かう。(以上前号)

来た道を再び庄川に沿って走る。谷底深く流れる庄川の水はきれいである。庄川は岐阜県北部の飛騨山に水源を発し、北流して世界遺産に認定されている合掌造り集落で有名な白川郷や富山県五箇山を通って砺波(となみ)平野に入り、富山湾に注ぐ全長115kmの水量豊富な急流河川である。

 

タクシーのなかで、運転手から宮本友精さんの話を聞く。私は勉強不足で宮本さんのことを知らなかったが、和紙の世界では名の通った方で、宮本さんは平村で50数年、和紙づくりをされており、原料である楮の白皮を雪の上に広げて白く晒すという「雪晒(さら)し」をされておられる人で、五箇山でただ一人守り続けておられるという。いい話である。

 

農事組合法人(農法)五箇山和紙

話をしているうちに、平村下梨にある農事組合法人(農法)五箇山和紙に着いた。そこに立ち寄る。なかでは若い人達が紙漉きをしていた。22,3歳くらいであろうか。ここで和紙づくりの修業をし、身を立てたいという人達である。五箇山には、こういう若者が県外からも来ているという。

三年目という女の人の紙漉きを見せて頂いた。なかなか上手い。これでもまだまだとのことである。

若い漉き人が目立つ五箇山和紙

 

相倉合掌造り集落

その足で相倉合掌造り集落に行く。さすがに世界遺産である。合掌造りと土の風情に趣がある。相倉は、戸数27戸の集落で合掌造り家屋20棟のほか、近くの寺院や神社、土蔵、板倉などの伝統的な建物や雪持林などが、重要伝統的建造物群保存区として指定されている。ホームページ…「世界遺産の村たいら」の世界遺産の村たいら│世界遺産合掌造り集落│をご参照ください。

 

相倉民俗館

相倉合掌造り集落のなかにある平村立の相倉民俗館に入る。

  • 入館料:200円

相倉の歴史は遠く原始時代に始まり、村落共同体が形成された。その後、加賀前田藩の支配下になって、養蚕製糸、塩硝づくり、紙漉を生業とする村が出来あがった。この民俗館には、村の人達の長い年月を掛けて使い古した民具類や和紙生産の資料などが展示されており、暗っぽく古めかしい合掌造りの民俗館にふさわしい雰囲気がある。

相倉民俗館と展示品(一部)

 

参照ウェブ

  • 世界遺産:白川郷・五箇山の合掌造り集落
  • 世界文化遺産 白川郷・五箇山の合掌造り集落
  • ☆☆☆世・界・遺・産☆☆☆

 

今朝早くから盛り沢山であった。満喫した。

そろそろ時間である。相倉合掌造り集落をあとにする。これから16時前のバスに乗り、城端駅まで行き、来たときの逆で高岡に戻り、そこから金沢市(石川県)まで行かなければならない。

 

メモ

相倉口発 バス 15:47(加越能鉄道)、城端駅着 16:15、城端駅発 16:49(JR城端線)、高岡駅着 17:40、高岡駅発 18:03(JR北陸本線…サンダーバード40号)、金沢駅着 18:29

 

(2002年5月1日完成)

 

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)