コラム(81-1) 「紙はなぜ」(1) 紙はなぜ折れるのでしょうか? 1

紙はなぜ折れるのでしょうか?、そして折っていくと…

今回から新しいシリーズとして「紙はなぜ…」の題目でまとめていきます。

紙の基本特性で主なものは、

  • 親水性で、かつ親油性であること…水または湿度に敏感(湿度変化、伸縮、カール、紙くせなど) で、また油性インキによる印刷や鉛筆、ペンなどで筆記がが可能なこと
  • 異方性(方向性)・両面性を持つこと…紙の目(縦・横)、表裏差など
  • 多孔性であること…液体などの吸収、浸透が可能
  • 圧縮性・クッション性・弾力性を持つこと
  • 柔軟性を持つこと…剛度(こわさ、腰、手肉)
  • 光、気体などが透過・通気性であること
  • 保温性であること…伝熱性小
  • 電気を通しにくいこと…伝導性小、絶縁体であること
  • 表面は酸性ないし中性であること…酸性紙、中性紙
  • 紙力に限界があること…引張り、耐折、破裂、引き裂き、伸び、表面強度など
  • 耐久性に限界(劣化性)があること…強度劣化、退色性など
  • 可燃性であること
  • 折り曲げ可能であること
  • ある程度の厚さを持つが軽くて、平面・平滑で薄いこと
  • 白くて不透明性でありかつ、染色しやすいこと
  • 加工しやすく、張り合わせも容易
  • 無害で再生が容易なこと などですが、もう一度これらの基本特性を含めて基礎的なことをおさらいしていきたいと思います。今回はその一回目として「紙はなぜ折れるのか」、「紙を40数回折るとその厚さは月まで行く」とは本当?などをまとめました。

 

紙はなぜ折れるのでしょうか

皆さんは折紙(あるいは普通の紙)を折られたことがあると思いますが、たやすく折れたと考えます(ただし、厚くて硬い板紙は折りにくいので別。折紙には使えません)。

そのときに折り目には折った跡が残っていますね。他の素材、例えばプラスチックなどでは、元に戻ろうとする力が強く働きますので折り目はつきませんし、無理に折ろうとするとポキッと割れてしまいます。では「紙はなぜ折れて、折れ目が残るのでしょうか」。

 

紙はたくさんの繊維が絡み合ってできており、繊維同士は水素結合(水素結合を詳しく説明しています)という弱い結びつきで結合していますが、折ると、そのときの力によって繊維は変形し、つながりが壊されます。その後、一部の繊維は大気中の水分を吸収して再びつながります。このように変形し、歪(ゆが)んだままの状態で繊維どうしが結びつくことによって折り目が残るのです[紙の豆辞典3(JPレポート70より)]。

なお、繊維が折れてしわの付いた紙に圧力、熱、湿度(水分)を加えても、繊維の折れた部分と折れていない部分とでは同程度に繊維の収縮、膨張が起り、しわを完全に直すことはできません。

 

それでは「紙はなぜ折り目をつけると破れやすくなるのでしょうか」。

紙は短い繊維が水素結合という弱い結びつきで絡み合っていますが、手でも破りやすく裂けます。紙を折ることで、折り目部分の繊維の絡み合いが緩んだり解けたりしますが、そうすると繊維の絡み合いが弱くなり折り目で破りやすくなるわけです。また水分を含んだ紙も繊維の絡み合いが弱くなり破れやすくなります。なお、破れ目に毛羽立ちが見えるようになりますが、これが解けた繊維です。下写真の左はカッターで断裁した紙の断面。右は引裂いたときの紙の断面(拡大)…毛羽立ちが見えます[ホームページ絵画・美術工芸品・文化資料の保存修復 祐松堂から引用]

抄紙機で紙が造られるときに多くの繊維がマシンの流れ方向に並びます。すなわち繊維に方向性(配向性)ができますが、この繊維配向も紙の破れに関係します。例えば新聞紙は繊維の向き(配向)が紙面の上下方向ですので、上下方向(縦方向)には比較的きれいに裂けますが、横方向にはあまりうまく破れません。まさに後記のように「横紙破り」です。

 

参考

それでは紙はなぜ水に弱いのでしょうか?
紙は短い繊維同士が絡み合ってできています(右写真参照…ホームページ紙の豆知識:紙のQ&A:紙は水に濡らすとなぜ弱いのですかから引用)。

この絡み合っている状態は、繊維と繊維が水素結合という 力でお互いに引っ張り合っています。この水素結合は非常に弱いので、紙を手で引きさいてみると簡単に破れますし、水の介入によって軟らかくなり結合は弱まり簡単に切断されてバラバラになります。これは紙を水に濡らすと、繊維同士の水素結合の間に水が入り繊維と水がさらに弱い水素結合してしまい、繊維同士の水素結合が壊されて紙が弱くなりバラバラになるというわけです。

しかし、水に濡れると弱くなる紙の特徴は大きな利点にもなります。トイレットペーパーが溶けにくければ(繊維が水に溶けるわけではなく、正しくは水で解れ(ほぐれ)にくければ)、トイレが詰まる原因になります。また新聞紙、雑誌やダンボールなどが古紙として再生紙に生まれ変わり、再利用できるのも溶かすことができるからです。

トイレットペーパーは、トイレに流すと繊維が解れてバラバラになるのです。一方、ティッシュペーパーは、強度を増すため、繊維同士を接着させる薬剤を混ぜていますので、繊維が解れずトイレがつまるのです。

 

では「紙はなぜ方向によって破りにくいのでしょうか」。

紙には目(め)があります。ここでいう目とは、もちろん視覚器官の目でなく、筋状の模様や凹凸、そのような性質・傾向を持つ意を表すものです。それで「紙の目」とは紙を漉くときに生じる縦方向、すなわち、流れ方向の「漉き目」のことで繊維の方向(繊維配向)を示し、「流れ目」ともいいます。

紙の目は、紙造りの抄造工程で発生しますが、例えば、洋紙製造時に抄紙機のワイヤー(金網。現在はプラスチック製のものが主流)の上に噴流された紙料は、進行方向に高速で走りながら脱水されます。その過程で、細長い繊維の多くは流れ方向に行列(配列)したように並びながら結合して層を形成しますが、この時、紙はさらに進行方向に紙は引張られ、プレスパート(圧搾・搾水部)やドライヤーパートでの乾燥過程で配列傾向は助長され、固定されます。これが紙の流れ目となり、「紙の目」ができることとなります。この結果、紙は縦横の方向性、すなわち、紙の進行方向(縦)と左右方向(横)と性質が異なる異方性を持つことになります。

しかし、繊維はすべてが 100%流れ方向に配列しているわけではありません。抄紙機と抄紙条件で差がありますが、繊維の多くが流れ方向に並んでいるのです。

かりに繊維がすべてランダムに並んでいれば、紙の方向性による特性差はなく、すなわち異方性でなく、等方性で縦横差のない均一な紙となりますが、実際には多くの紙が異方性を持っております。

このように紙の方向によって差があるために、抄紙機上の紙の進行(漉き目の)方向を縦[マシン方向、machine direction、MD…記号 T]とか「順目」と決め、抄紙機の幅(流れ目に直角)方向を横[クロスマシン方向、cross machine direction、CMD …記号 Y]とか「逆目」といいます。

また、紙は断裁され平判(矩形状)で使用されることが多いのですが、紙の寸法において、紙の縦方向に長辺を持つように取るのを「縦目取り(T目)」といい、紙の横方向に長辺を持つように取るのを「横目取り(Y目)」といいます。

すなわち、紙の長辺が流れ目に平行の紙を「縦目」の紙といい、流れ目と直角の紙を「横目」の紙といいますが、紙の寸法表示の方法は統一されており、「横寸法(紙幅)×縦寸法(流れ)」のように、最初に紙幅寸法を指定(記入)します。例えば、765×1,085(mm) は長辺が流れ目に平行(縦寸法)のため「縦目の紙」であり、880×625(mm) は長辺が流れ目と直角(紙幅)方向すなわち、横寸法のため「横目の紙」といいます(図 FAQ(6) 紙の縦目と横目 参照)←クリックをどうぞ。

 

ところで「横紙破り」という諺がありますが、習慣に外れたことを無理に押し通したり、自分の考えを強引に押し通す意味で使われておりますが、これは紙の横方向が縦方向よりも破りにくく、しかもきれいに破れないのに、無理して紙の横方向に破ることからきております。

 

横紙破り…紙は「紙の目、漉き目」(縦方向)に沿ってほぼ直線状(縦方向)に裂けやすく、その逆(横方向、横紙)は蛇行状になり裂けにくいという特性がある。特に和紙は長繊維を原料にして縦揺りして漉くことが多く、縦への漉き目が強くその傾向が大きくて、横方向に破りにくいことから、この諺は由来している。

 

同じ意味で「横紙を裂く」とか、「横車を押す」も使われます。「習慣に外れたことを無理にしたり、自分の考えを強引に押し通す」意味で使われるが、これは上記のように紙の横方向が縦方向よりも破りにくく、しかもきれいに破れないのに無理して紙の横方向に破ることからきている。紙を取扱う場合には、このような特性を知ることは極めて重要なことです。

そして紙を破ってみて比較的抵抗なく、簡単にほぼ真っ直ぐに破れるほうが紙の流れ目(縦目)で、破れ口からは繊維があまり飛び出して見えません。すなわち、毛羽立ちがあまり生じません。一方、抵抗もあり真っ直ぐに破れ難く、曲がって裂け、かつ破れ口からは毛羽立ちが多く見えるほうが横目です(図5①参照)。なお、使用原料として針葉樹が多ければ毛羽だちが多く、広葉樹パルプはほとんど毛羽が見られません。

 

紙の異方性…紙の異方性によって生ずる伸縮性や物理的性質などの主な諸特性を整理しますと、縦方向のほうが横方向に比べ、

①引裂き強さは低い…縦方向つまり「流れ目」に沿って裂けやすい

②湿度に対する伸縮は小さい

③こわさ(剛度・腰)は高い

④引張り強さは強い

⑤引張りによる伸びは小さい

⑥耐折強さは弱い などが挙げられます。

 

このように、紙の縦と横とでは差がありますので、紙を取扱うとき特に印刷や加工・包装・製本などを行う場合、このような特性をよく知った上で、紙の目を選定することは極めて重要なことです(ホームページ「紙への道」FAQ参照)。

蛇足ながらもう少し図などを入れて説明します。

 

  次のページへ


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)