FAQ(1) 「紙」という漢字の語源について

「紙」という漢字は、紙発祥のである中国で生まれました。すなわち、「紙」という漢字の成立ちは、中国最古の辞書(字書)といわれる許慎(きょしん)(西暦30~124年)の「説文解字」(せつもんかいじ)(西暦100年)に見られます。その解説によりますと、「紙絮一苫也」(紙は絮の一苫なり)とあり[ (注)絮…じょ。苫…せん。簀、簾(すだれ)のこと]、紙は「絮を洗って、これを簀でこしたもの」と位置付けしております。

ここで絮(じょ)とは、「蔽緜(へいけん)なり」とあって屑繭(くずまゆ、古真綿)のことで、絮の懸濁液を簀(す)で漉きとり、簀の上に残った繊維の薄層を乾かしてできたもので、その物質の表記に「紙」の字を当てたわけです。

 

ここで「紙」という字を分解してみますと、紙という字の偏の「糸」は、蚕糸を撚り合わせた形により、糸を示す象形文字で、旁(つくり)の「氏」は、匙(さじ)の形を描く象形文字で滑らかなこと表します。すなわち、糸+氏=紙で蚕糸を匙のように薄く平らに漉いた、かつ柔らかいものをいいます。(注)「紙(し)は砥(し)なり、その平滑なること砥石(といし)のごとき」(「釈名」劉煕(りゅうき)著)

当時の紙の製造法が、屑絹糸を平面に漉いて、滑らかにしたことから「紙」の字が成立したわけです。

 

しかし、絹は非常に貴重なものであったため、絮より安価な麻などの植物繊維を材料とするようになり、後漢の蔡倫(さいりん、蔡侯)が、紙を作り西暦105年に帝に献上したと記録に残っております[「後漢書」…中国の史書、宋の笵曄(はんよう)の編集]。

 

すなわち、後漢書 蔡倫伝の中に「自古書契多編以竹簡、其用糸兼帛者、謂胃之為紙、糸兼貴簡重、並不便於人、倫乃造意用樹膚麻頭及敝布魚網以為紙、元興元年奏上之帝善其能、自是莫不従用焉故下咸稱蔡侯紙」(抜粋)と記載されております。

これを解すると、「古より書契の多くは編むに竹簡を以てす。その縑帛(けんぱく)を用いる者は、これを紙といった。縑は高く簡は重い。並びに人には不便である。倫(蔡倫)すなわち意を用いて樹膚(じゅふ)、麻頭(まとう、大麻の上枝)、敝布(へいふ、麻織物のぼろ)、魚網などを使って紙をつくり、元興元年これを皇帝に奉った。帝はその才能を褒め、これよりこの紙を用いないことはなかった。故に下の人びとは皆これを蔡侯紙といった」というものです。

 

文中、縑は「けん」といい、絹のこと

  • 元興元年…西暦105年、皇帝…後漢の和帝
  • 紙以前の書写材料:
    • 竹簡・木簡…紀元前1300年~
    • 帛(絹布)…紀元前7、6世紀~

 

なお、中国の紙漉きの技術が、わが国に伝えられたのは、朝鮮・高句麗から僧侶曇徴(どんちょう)と法定(ほうじょう)が来朝した西暦610年であると日本書紀に記録されています。

これによれば、「推古皇の18年(西暦610年)の春三月、高麗王、僧曇徴、法定を貢上る。曇徴五経を知り、且た能く彩色および紙を造り、并せて碾磑(てんがい)を造る。蓋し碾磑を造るは是の時に始まるか」とあります。すなわち、推古皇の18年(西暦610年)の春三月に、高麗の王が曇徴と法定という二人の僧を遣わした。曇徴は儒教、仏教に通じている上に、絵の具や、紙やの製法も心得ており、水臼もつくったというものです。

 

これがわが国へ伝来した製紙の始まりとして記録上、残されている初めてのものですが、紙そのものはそれ以前からわが国に伝わっていたとされております。

 

中国で発明、改良された紙は朝鮮半島を経由して、わが国には3~4世紀頃には、すでに渡来人によっていろいろな文化とともにもたされていたのではないかと思われています。すなわち、西暦3世紀代には、当時北九州にあった倭奴国と、中国(漢代)との間に国書が往復し、使節が往来していたから、当然漢字も伝来し、中国産の紙も舶来していると考えられ、その頃に日本人は「紙」という漢字と、そのものを知ったものと考えられているわけです。

 

紙の中国音はzhiですが、倭言葉として「カミ」と発音(和音)するようになったのは奈良時代になってからといわれます。その語源については諸説があり、「カミ」と言う日本語は、「語源難語」の一つと考えられており、定説がありませんが、竹簡・木簡の「簡」(カン、カヌ)からカミに転韻したものか、樺(かば)の木の樹皮に書いたことから、カバ→カビ→カミと変化したものなどがあります。

なお、現在、世界で「紙」という字を使用している国はわが国と中国、台湾だけです[ただし、中国は糸偏の下の方が横一棒の簡略字体]。

 

参照

テーマ「紙」の紙の歴史(本文)および表「紙の歴史」、「和紙」の和紙の知識 和紙の歴史もご参照ください。

 


更新日時:(吉田印刷所)

公開日時:(吉田印刷所)