備えあれば憂えなし
こうした事件・事故・災害・トラブルなどを100%避けることは不可能かも知れませんが、こうも被害が拡大した原因は、なんでしょうか。まず安全(品質も含む)かどうかと、危険予知を持ち、対応・実行すること、そして遭遇したときの初期対応が的確に行われていれば多くの人命が救われたでしょうし、会社そのものが存亡の危機に曝されたり、喪失したりすることはないと思います。逆に言えば、対応次第で大惨事・大事件に発展するという教訓を示しています。
しかし、このような事件・事故やもう少し小さなトラブルが発生したときに、的確で最善の応急対応が望まれますが、急に出来るものではありません。ましてや、「ミスやトラブルは起きないもの」と考えたり、敬遠していたのでは適正な対応などはできません。
品質管理のもとに工場で生産され、安心して出荷された製品。それでもトラブルは発生します。皆無ではありません。まず「ミスやトラブルは起こるもの」という前提で、日頃から心の準備をしておき、その内容や程度・影響などを想定して対処し、身に付けておくことがより重要であると考えます。
もちろん、量が少なくても、例え1件でも信用を失うとか、顧客が逃げたり、安全や生命にかかわるような重大なクレームは最悪の状態ですので、そうならないように事前の予防に万全を期さなければなりません。起こりえるミスやトラブルが発生しないように努力するとともに、万が一、ミスやトラブルが発生したときに、問題が拡大しないように如何に対処するかなどの対策をまとめておき、実践、確認しておくことも非常に重要なことです。「備えあれば憂えなし」です。
なお、同じ欠陥でも紙の用途によって許容の程度が違ってきます。特に食品用途では、虫、血痕、スライム(紙料のなかに微生物の作用によってできる粘状物質)、錆、塵などのある汚れ欠陥紙の混入は非常に嫌われます。もしそのような混入紙が発見されれば、印刷物、およびその加工品は完全検品による欠陥部の除去か、それら全部の棄却を余儀なくされます。また、残余の同生産品はロットアウトになり、多大な損害をこうむることにもなります。 他にも用紙が高級な用途、例えば、高価で豪華な写真集に使われるときも注意が必要です。ブレードコーター宿命の欠陥であるストリーク(筋)が、特に、例えば皇室などの人の顔面部分にかかれば大きな問題になりかねません。普通の汎用的な用途では、その発生量にもよりますが、あまり大きな問題に発展しない同欠陥でも、このように場合によっては重大欠陥になるわけです。
さらにボルト、ナットなどの金属片が混入するというような欠陥は、場合によって印刷機のシリンダー軸を曲げたり、破損の大事故につながることがあります。また、巻取製品を倉庫などで数段積み上げて荷役・保管することが多いのですが、巻取紙を外装する包装材(加工紙やフィルムなど)が滑りやすければ、巻取製品が滑って落下し人命にも関わる大事故になりかねません。このように大事故に発展すると予想されるときには、事前にその原因となる重大欠陥の混入防止策やトラブルが発生しないように品質設計の見直し・修正などの対策を採ったりします。また、あらかじめ注文時ないし抄造前に用紙の向け先や用途などを確認して、品質の重点管理強化や選別出荷などの対策をします。
さらに時間とともにマンネリに陥ったり、人が替わったりすることがありますので、定期および不定期にマニュアルなどの見直しと再教育による徹底、品質意識を高めるなど継続的な取り組みが必要です。
ただ、いろいろな状態を想定したクレーム防止マニュアル類を整備し、徹底しても、トラブルはある日突然、なんの前触れもなく起こることがあります。不幸にして考えも及ばないトラブルが発生した場合、如何に的確に対応できるか、如何にスピーディに誠意をもって解決に当たるかが、ポイントで肝心となります。そのときに最終的に決め手になるものは、臨機応変に、しかも正常に対応する人の判断力であり、感性です。
そのことを先の教訓から学びました。さらに、顧客(需要家・消費者)および社会に「安全と安心」を与え、「信頼」を高めるためには、製品品質もさることながら、トップも含めた一人ひとりの品質と社会的責任を果たすべき企業の品質、それにそれぞれの対応力の確立が重要なポイントであることを事例は教えています。
トラブル発生時のチェックポイント
トラブルは、相手にとっては損害であり、待ったなしです。顧客の身になって考えることが重要です。せっかく買って使用してもらった商品でトラブルが発生し、しかも納期に追われるような事態になれば、一層、カリカリし、もう2度とこのものは使用したくないと思うのが普通です。このときはお金や補償の問題ではありません。そのようなときに、いわゆる客離れが起こるのは、ほとんどが対応のまずさにあります。そのために最初の正面担当となる本社・営業の初期対応が重要となってきます。
従って、営業マンは、もの(サービスなどのソフトウエア含む)を売るばかりが仕事ではなく、売ったもののフォローをすることも大きな仕事です。クレームに対する姿勢が逃げ腰であり、余分な業務だという認識では、つい顔や態度に表れ、大事な得意先を失うことになりかねません。
これは紙の紙の基礎講座(4) 品質クレームへの対応「平時およびトラブル発生時の対応」「品質クレーム減少のために」(2006年7月1日)に載せた文章です。如何に円滑にトラブルに対応するのか、これまで述べてきました。クレームへの対応は、待ったなしです。すべての業務に優先してもおかしくなく、そうすべきです。そのためには、まず現場に飛んでいくことです。すぐに現場に行くことで相手の信頼を得ることが多く、速やかに訪問し、まず陳謝します。原因はともあれ、緊張した場面では、まず謝ることが解決への近道です。言い訳や反論は禁物で、先方の言い分を良く聞き、誠心・誠意・誠実にことに当たることが必要です。そして問題解決のために全力を注ぎます。そのために必要な情報・状況を正確に、しかも要領よく把握することが、緊張した雰囲気の中では特に大事になってきます。
そこでこのようなときに活用したい紙の基礎講座(17)資料 クレーム・情報記録票を表1に例示しました。この記録票には、印刷トラブルが発生したときやクレーム立ち会い時に確認すべき項目を掲げてあります。なお、この記録票は全てを網羅していませんので、その補完資料として表2に紙の基礎講座(17)資料 クレーム発生時のチェックリスト(紙商営業マニュアルから抜粋・加筆)を示しますが、参考にして、より使いやすい記録票を作成されたら良いと思います。
次にそれらの概要を説明しておきます。クレーム発生時に確認すべき項目は、当該品のメーカー・品種・銘柄・品番・坪量・寸法・連量・製品形態[平判(連包装・パレット包装)、巻取]・納入数量・使用数量・クレーム数量および生産ロット番号・需要家・版元・用途・流通経路と、代替可能な同銘柄品の保有量と場所(在庫状況)などです。
ここで当該品のメーカー・品種・銘柄・品番などを確認するのは、間違って他メーカー品のクレームで連絡を受けることがあるからです。また、生産ロット番号が分かれば、その番号から当該品を生産した工場・抄紙機・塗工機・年月日などが知れ、抄造(生産)時にさかのぼって、生産履歴を追跡することができます。そして当時の工程上の調査を行い、原因を絞り込み、究明することが可能となりますので確認すべき最重要項目です。なお、流通段階で小判裁ち・小割り巻取にする場合や印刷・加工時などには、ロット番号が不明になることがありますので、使用銘柄名とともに、そのロット番号を控えておいてもらうようにし、しかも使用製品のラベルを一時保管して貰うよう、日頃から流通業者・コンバーターに依頼しておくのがよいでしょう。さらに印刷、加工物の用途、発注先・版元を知ることは、場合によっては先方へも対応することがあるためです。
次にトラブルの具体的、かつ重点的な、時には詳細な状況把握が重要となります。これは原因の究明と処置、再発防止を取るために必要なことで、トラブルが起きた現物の確認と、その原因となった物件の採取・入手や発生状況の把握を行ないます。そして印刷・加工条件(機械名、速度、印刷版式、色数、刷り順、湿し水の有無、湿し水のpΗ、インキの銘柄とタック、使用場所の湿度・温度など)、および持参器具による測定・撮影による情報収集と残品のチェックなども合わせて行ないます。また、場合によっては、同ロットの在庫品をチェック・検品することも必要なことがあります。
なお、このクレーム・情報記録票とクレーム発生時のチェックリストは、紙の基礎講座(15) 印刷トラブルの全体を知るⅠ (2007年6月1日)掲載の表1.印刷トラブル分類別の用紙の主要因および調査ポイントとともにご活用ください。そして日頃から、臨機応変に、しかも正常に対応できる判断力、感性を養ってください。
これでもって、シリーズ「」を終わりますが、自信を持ってトラブル対応ができるようになられたと思います。
さあ、準備ができました。いよいよ出発です。ご健闘を祈ります。長い間、ご愛読有難うございました。
(2007年8月1日見直し・再録)